言わねばわからんことばかり
しばらく誠一さんの胸で泣いて、誠一さんが神様のように見えた。
誠一さんはあたしが胸で泣いたことも、愚痴ったことも全ていいよ。とその大きな心で許して下さり、その上頑張れ、とあたしの背中を押して下さった。父様、母様。あたし、まだ頑張れますから!あたしの周りには、こんなにも優しい方がおられますからっ!
「…誠一さん、」
「…何だい」
「………お父さんって呼んでもいいで…」
「それは流石に勘弁してくれや」
幸せも全部
「…誠一さん、本当にありがとうございます…あたし、頑張りますから!」
「あぁ、こんなことくらいならお安い御用さ。泣きたくなったら言ってくれ」
「…っ!!せ、ぜい゙い゙ぢざんっ…!!」
「は、鼻水も勘弁っ!」
彼の優しさは目に染みる。こんなに優しくしてもらっていいのか、そんな不安が出るほど彼は優しい。誠一さんの優しさは海の潮風のようだ。
「ひのわちゃんには命を助けてもらってんだ!胸くらいならいつでも貸すさ」
「…そ、そんな、あのときのは簪貰ったじゃないですか…」
「簪と命じゃ秤にかける必要もないだろ?」
「…あ、ありがとうございますっ!!」
ぎゅう、と誠一さんの腰に抱きついて、何度も礼を繰り返した。誠一さんは海のように大きな心をお持ちだ。大きくて、時に厳しく、時に優しい。どこか懐かしいような、また会いたくなるような、そんな海のような大きな方。なんて、海に行ったことなんてないんだけど、てへ。
「ほら、元就様の元へ行っておいで」
「……」
背中を押され、頷いたあたしに、誠一さんは眩しい笑顔を向けて、行ってらっしゃい、とおっしゃられたからあたしの緩くなった涙腺が堪らなく崩壊しかけてあたしはもう必死にこらえてもう一度元就氏の部屋へ向かった。って何だか永遠の別れみたいだけれども、決してそんなわけではないんだよ?これからもきっと誠一さんの出番はあるから!
元就氏の部屋の前。あたしは深く息を吸って吐いた。いっぱい泣いたからあたしはもうめげないしょげないくじけない!十回以上呼吸を繰り返してからあたしは戸をすぱーん!と勢いよく開けてしまった。
「…………」
「…………」
「……空気読めなくてごめんなさい」
開けた途端、元就氏の後ろ姿が目に映ったのはまぁ元就氏の部屋だから当たり前なのだが、彼の背中から、こう、なんというかどす黒い怒気を感じました。怖くて心臓止まるかと思った…!
「も、元就氏っ!それで、あたしは言いたいことがあるんだ」
「……」
「あたしは元就氏の心がわからない。あたしのことをどう思ってるのかも、何故急に奥になれとか言い出したのかも」
真っ直ぐ見つめた元就氏の無表情も、今は恐いと思わないから、
「だから、言って欲しいんですっ」
あたしは元就氏とちゃんと話したいから、
「元就氏が思ってること、溜め込まないで、言って欲しいんですっ!」
目を見開いた元就氏。冷や汗がたらりと垂れて、元就氏の次の言葉が怖くて目を瞑ったものの彼は何も言わない。
「………」
「………」
「………」
「……言ってよ!あたしは元就氏の、本当の友達になりたいんだっ!!」
上辺だけじゃなくて、何でも言えるような、信頼できるようなそんな関係に、あたしは元就氏と。
「あたしは元就氏と友達なんだからっ!」