私は決して君ではないから
元就氏は今会議に行っておられるからここにおられない。つまり今あたしは一人なのだ。
一人っていうのは寂しいものだ。今まで散々一人でいながらこういうのもおかしいのだが、その後、誰かといいる温かさを知ってしまうと離れられないのだ。
例えるならこたつ布団が入らなければその寒さに耐えられたが、こたつ布団に入ってしまうと今まで耐えられた寒さに耐えられなくてこたつ布団を離れられないっていうそんな感じ。まぁあたしは一緒にいるのが氷の仮面を被った人なのだが、温かいっちゃ温かいのさ。
幸せも全部
「ひ〜とり、ぼっち〜の〜あ〜た〜し〜」
なんて歌いながら、一人ぼっちなのでやりたり放題やっているのだが、それはそれで寂しい。一人で日光浴するのも一人で昼寝をするのも、どれも一人でできることなのに何だか物足りないというか何というか。
「まったく元就氏の奴遅いなー。こんな可愛らしい女の子を一人残してー」
自分で可愛いとか言っちゃったけど誰もいない。つまり一人なので誰にも否定されないのだ!今なら自分のことを世界一の美人だと言っても、どれだけ誉めても誰にも邪魔されないのだ!…だから何って?
「町にでも行こうかなぁ」
前は元就氏に連れて来てもらったし、今日は一人で行ってみようかな、と町に向かった。が、何か買いたくともあたしはお金を持っていない。がっくりうなだれているとまぁ不思議!目の前に左吉さんを見かけたのです。
「左吉さん!お金下さいっ!」
「…嬢ちゃん。俺は金蔓か何かかい」
「お金下さいっ!」
「……はぁ…」
都合良いなぁ神様って。何て嬉しく思いながら左吉さんに手を出せば、彼は溜め息混じりに少し下さった。あぁやはり良い人だ。
「それにしても嬢ちゃん一人でどうして町に?」
「それがですね、元就氏は今会議中なのであたし暇で暇で。で、町に来てみたんですけどおこずかいも何ももらってないので何も買えなくて」
「それで俺にかい?勘弁してくれやい」
「はい!頼りにしてます!」
「阿呆か!」
呆れた風の左吉さんからもらったお金をぎゅと握りしめてあたしはちらちらと周りを見回した。相変わらず賑やかだなぁと思うものの、この人だかりは少し暑苦しいというか。
「左吉さんはどうして町に?」
「んー、いや別に大した用じゃねぇんだ」
少し照れ臭そうに笑われた彼。その何とも幸せそうな顔にあたしの頭はぴかんとした。
「恋ですね!」
「う、うっせぇっ!…って何で?!」
「神様ですから」
二人で色々喋ってから別れて、あたしは色んな店を回った。町はいるだけで楽しいしうきうきする。と、見かけた小物屋。そこに置いてある枝折り。その枝折りを見て、自然と書を読む元就氏を思い出したあたしは思わずその枝折りを買っていた。簡素な作り。その上安い物だ。だけれどこの枝折りの素朴な雰囲気があたしは好きで、ご機嫌で帰った。
「これ、元就氏にあげよう!」
まぁ、一応居候だし、迷惑かけてばかりなのだ。少しくらい元就氏に何かしてあげたいな、と思って買ったそれ。元就氏が喜ぶだろうかと考えては頬が緩んだ。
「もうそろそろ元就氏も戻ってるかなー?」
そっと戸を開けて中を覗いてみればいつも通りの元就氏の後ろ姿が見える。心弾ませながら中に入ろうとしたのにあたしの足は、止まってしまう。
元就氏の書の間。ちらりとだが見えた金色の枝折りらしきもの。可愛らしい色が塗られていて、あたしの買ったような物とは比べ物にはならない。枝折りを握る手に力が入って、あたしに気づいた元就氏が振り返った途端思わず枝折りを背中に隠した。
「貴様何処へ行っていた」
「…ん…ま、町にちょっと」
「…一人でか」
「…うん…」
そっと中に入って部屋の隅に座った。ここからでも見えるその枝折り。誰かに貰ったのかな、と考えて溜め息が出た。
何だかちっともあたしらしくない。こんなことで沈んだりして女々しいっての。
最初から考えれば、こんな安っぽい枝折り、一国の主である元就氏が使うわけないか。あぁ自分で言っててかなり落ち込むな、と溜め息ばかり。
「…何だ、気味悪い」
「き、気味悪いって何さ、人を妖怪みたいに…まぁ神様だけど」
「貴様は妖怪みたいなものだろう」
む、といつもなら怒るのに今はそんな気にもなれず、ただ気のない笑いをしたら、元就氏は少し怒った表情になられた。
「何だその腑抜けた様子は」
「………」
「言いたいことがあるのであろう」
「………」
言えるわけない。あたしったら恥ずかしい。あたしは、どうしてこんなに自惚れてたのだろうね。