帰り道。いつものように見慣れた風景を眺めながら歩みを進めていると頭を掴まれたような感覚に襲われた。いや、正確には本当に掴まれているんだけど。

「なん、なまえも今帰りか」
「いつもこの時間だって。雅治今日は遅くない?」
「今日は幸村にしごかれたんじゃ…お陰でこの時間になってしもたんよ」
「御愁傷様でーす」

この変なしゃべり方をするこいつは幼馴染みの仁王雅治。私は彼とは違い公立高校に通っているため会うことはあまりない。しかし会うたびに他愛のない会話をして笑う、そのサイクルが心地よかった。

「…ん?前からこのピン使っとった?」
「これ?これは1ヶ月前に友達とお揃いで買ったの。可愛いでしょ?」
「…色気付きおって」
「うわ、ひどっ。私だって簡単なお洒落ぐらいしたいの」

立ち止まって私の前髪を止めているピンを弄る彼に何もせずなすがままになっていると、するり、と髪から弄られていたそれをとられてしまった。なんなの、何がしたいのこいつ。

「雅治ー、返してよー」
「いやじゃ」
「何こいつ。子供かっ!」
「とれるもんなら取ってみんしゃい」
「うわ、むかつく」

女子の中では高めな身長だけど、こいつと比べたら私だって小さい。これより高い女の人なんてせいぜいモデルさんくらいだろう。
とにかく取り返すためにつま先立ちになって手を伸ばすけど届かない。なんなのこいつ!

「か、え、せ!」
「却下」
「まーさーはー…うわっ!?」
「ちょっ」

「あ、りがとう…」
「おまんは…危なっかしいぜよ」

…何この状況。よし、経緯を整理しよう。まず私はとられたピンを取り返そうとした。それを笑うように雅治が腕を上にあげてとらせないようにするから、イラついてジャンプして取ろうとしたら着地に失敗して雅治の胸にダイブ。もしかしてダイブ=抱き付いてるってことに…?
もうあと少しでお互いの鼻先がつくぐらいの至近距離で彼と目があった。その目が至極優しそうで、そんな目はずっと一緒にいて見たことなくて、ドキドキする。

「…離れとうないのぅ」
「え?」
「なんでもないナリ。ほら、大丈夫か?」
「う、ん。ありがとう」

なんとか離れて、だけど雅治を直視できなくて俯いていると前髪にピンが付けられた。そして少し見える額に別の感覚。顔をあげたらまた彼の顔がすぐそこにあって、額に感じた“何か”がなにか分かって今度こそ真っ赤になった。



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