「跡部くん、まだ仕事ある?」
「いや、これで最後だ。悪いな、いつも手伝ってもらって。」
「ううん、私暇だし。誰かの役に立てるならいつでも手伝うよ。」

普段立ち寄ることなんて皆無なはずの生徒会室に、ここ一ヶ月ほどでかなりの回数を記録している。そもそもの原因は、私が日直の時に彼がいて、人力不足ということで仕事を手伝ったことが始まりである。彼は、若干の自意識過剰を除いて完璧な人だと思った。少なからず私の第一印象はそうだ。なんでもそつなくこなしてしまう、いわば“天才”。

「じゃあ仕事終わったし、帰るね。お疲れさま。」

いつも通り最後にお決まりの言葉を残し、私は生徒会室から出ていこうとした。

「ちょっと待て。」
「…へ?」

今日の夜ご飯何かなぁなんてぼーっとしながら扉を開けようとしたらかかる制止の声。思わず間抜けな声が漏れてしまったけれど、これはしょうがないと思う。

「Trick or treat.」
「…は?」
「菓子、持ってねーのか?ならイタズラだよなぁ…?」
「ち、ちょっと待った!どうしたの跡部くん、熱でもある?」
「失礼だな。ハロウィンだろ?今日。」
「いや、そうだけど!」

あれ、跡部くんってそんなこと言うような人だったっけ。予想外の言葉にポカンとしてしまった。一度止まってしまった頭はなかなか働きだしてくれなくて。すぐ近くにあったソファに押し倒された。そしてガチャリと閉められる鍵。その一連の動作をぼんやり眺めていたら、覆い被さる彼。そこでやっと危機感を持ったけれど、これは確実に、やってしまった…!

「あの、これはどういう…?」
「俺、吸血鬼なんだ。」
「…はい?」
「吸血鬼なんだよ、俺は。」

まさかのカミングアウトに今度は頭が真っ白になってしまった。ブラウスのボタンをひとつ外され、右側の髪を掻き分けられ鎖骨当たりに彼の顔が埋まる。その前に、耳元で一言、

「嘘だ、バーカ」

チクリとした痛みとともに、一気に身体が火照ってしまった。


故に溺れた


title×フライパンと包丁


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