私は極道の頭とその妻との間に生まれた。所詮ヤクザの組長の娘だ。お付きの人からは「姫」と呼ばれ(父さんが言ったから)、もちろん武術も一通り習った。父の役職が役職だ、頭が倒せないならその娘、という弱い奴の考えで狙われることだって可能性は十分ある。ごめんな。と、父に申し訳なさそうに謝られたのは昔の話、まだ小学生の時の話だ。
現在、私は高校二年。
組長の娘というのは隠して学校に通っている。しかし、いかんせん育った環境がアレだったためか、キレるとやばい、らしい。これはお付きの人から聞いた話だけど、相手のヤクザを土下座させたらしいのだ。頭に血が上ってしまうため、そのときの記憶はほぼ皆無に等しい。
「みょうじ。」
ふいに名前を呼ばれた。私の友好関係は浅く狭くだから、聞き慣れない声に疑問を覚えた。教師にもこんな声をした奴はいなかったはずだ。ならば生徒なのだろう、呼ばれたほうを見れば、目を開けていのるかわからないほど閉じられた糸目男、もとい柳蓮二がいた。
中学のころから王者だとうたわれてきた彼らを知らない人は、この学校内ではいないだろう、と私は思う。
何事にも興味を示さない私でさえ知っているのだから。
データマン、参謀という異名を持つ彼は、見た目は和風美人というべきだろうか。和服がよく似合うと感じた。ただ、表情が変わるところを見たことのない私にとって、無知の相手であり、あちらからしたらデータから推測した性格、行動などが割り出されているのだろう。
後々面倒なことになっても困るのは此方だ。重たい腰をあげ、彼の前へと移動する。その最中、たくさんの視線と、それ混じる殺気。家の奴にあてられる殺気とは月とすっぽんだ。
「…なんでしょうか?」
学校では、普通にいる平凡な女の子。ファンだと思わせるように、少し顔を赤らめてにこりと笑う。そして強くなる殺気。だから痛くも痒くもないって。
「ちょっといいか?」
「え、と…、わかりました。」
先を行く柳蓮二の後を付いていく。データマンだ、私が父の娘だということに気付かれたかもしれない。そうだとしたら、力で口止めするしかないか…いや、こいつなら言ったとしてもメリットがないため、もとから言う気などないか、だな。
着いた先は開き教室。人気がなく、使われていないのかすこし埃っぽい。
「単刀直入に聞こうか。お前…みょうじはこの辺りをしめてるヤクザの頭の娘だ。違うか?」
「……へぇ、さすがはデータマンですね。」
「ほう…では、武術は心得ているだろう?」
「剣道、柔道、空手、合気道などですが。あとは実戦で。」
「剣道が一番得意なんだな。」
「まぁ、基本は木刀ですから。
…で、君は何が知りたいんだ?探るように聞いてるけどさ。」
半分本性、見せてやるよ。
「それが本性か。」
「さぁ、どうだろうね?」
「……気に入った。」
「は?」
「面白い。データをとってもとっても覆される。」
覆されるのが面白いって、新種のエムか?思ったものの声にはしない。しかし、にたりと笑っているのを見るかぎり、可笑しな奴だと思うしかなかった。
「俺と付き合ってくれないか。答えははいしか受付けないが。」
「…逃げるっつー選択肢は、」
「ふ、そういう確率87%。逃げられたって捕まえてやるさ。」
…逃げ道はあるのか。
ほくそ笑むように笑うあなたに、少しだけ胸が高鳴った。
…追い掛けてきたら木刀でぶん殴ってやる。