放課後、私は帰路の途中にある喫茶店に入るのが毎日の日課になっていた。そこは、外見こそアレなものの、中に入ってみれば落ち着いた雰囲気が漂う。シックな家具に、オルゴール調の音楽。すべてが私好みで、いつのまにか毎日通うようになっていた。

ドアを押せば、カランカランというベルの音と、「いらっしゃいませ。」という店員さんの声。


「今日もいつもの?」

「はい、お願いします。」

「ありがとね!」


「財前いつものー!」と、注文をとった店長さんが中にいる財前さんに叫んだ。と、ぶすっとした顔をしていつものを持って奥から出てきた。


「店長、うるさいっすわ。」

「こうでもせんとお前は出てこんやろ?」

「………」

「ほらはよ準備せ「いつものやろ、なまえ」…持ってきとったんかい!」

「あ、はは…」


ことり、と、紅茶とタルトが目の前に置かれる。「今日は俺の気分でアールグレイやから。」と言われ、笑うしかなかった。財前さんは高校生で、しかももう大学が決まり自由登校期間だということでバイトをしているらしい。毎日通っているところに、いきなり知らない男の人がいたときは、物凄く驚いたのを覚えている。間違えたのかと思って出てこうとしたくらいだ。まぁそこで店長さんに止められたわけだが。


「…ん、おいし。」


この二人の口論は止まりそうになかったので、失礼かもしれないけど先に食べさせてもらった。相変わらずここのケーキはおいしい。今日はタルトだったけど、実はいつものっていうのは日替わりケーキだったりする。だからいろんなケースを食べてきた。ショートケーキから、スフレ、ガトーショコラ、チーズケーキ、などなど。あげたらきりがない。
気付けば、顔を真っ赤にしている店長と、にっこり笑っている財前さんがいた。あ、ケンカは終わったんだ。


「そんなうまいん?」

「え?あ、はい、とっても!」

「ふーん、じゃあ俺にも一口くれへん?」

「全然いいですよー。」


少しケーキをフォークに乗せて、それごと渡そうとした。が、財前さんはにたりと笑って、「おおきにな」口を開けておりました。


「は…はい。」

「…あーん、やろ?」

「っ、あ、あー…ん。」


な、なんていう羞恥プレイ…!少し震えた手を財前さんの口元に持っていくと、その手を掴まれて持ってかれた。「…まぁうまいんやない?」そう零して手を離されたかと思いきや、今度はその手をな、なななな舐めら、れた…!?


「ざ、財前さん!?」

「なんや?」

「なんや、じゃないですよ!」

「んー、やってなまえの手、うまそうやったもん。」

「おいこら財前!てめっ、なにやっとんや!」


さらに顔を赤くした店長さんは、はっとした表情で財前さんを怒鳴り付けた。
私もそれに負けないくらい顔を赤くして、どくん、どくんと脈打つ心臓を静めようとしていた。



しずまれ心臓!


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