不動峰 短編 | ナノ

『お疲れ様、アキラくん。』

「あ、名前さん。」

『一緒に帰ろーか。』

「いいぜー。」

久々に一緒になった帰り道。昔はこうしてよく歩いたのにね。

「好きな子ができたんだ。」

突然、君が一言言った言葉が頭の中をぐるぐる回る。

『…、それはよかった!!アキラくんにも漸く春かー!!で、誰?誰?』

「ば、馬鹿!!騒ぐなよ、ほら、言ったろ?こないだテニス部に来た橘さんて人。あの人の妹だよ。」

好きな子?好きな人?誰に?アキラくんに?誰を?橘さんの妹?ため息が出そうになるのをこらえる。だって私は、アキラくんを祝福してあげないと。

小さい頃から一緒にいた。アキラくんのことなら何でも知ってる。…だけど、私じゃダメなんだね。頭の中をくるくると回り続けるその言葉は、いつまでも消えずに深い傷を作る。

『どんな子なの?』

「いつも明るくて元気で、すげー可愛いんだ!」

『へー、アキラくんには勿体ないね!』

「…やっぱりそうだよな、俺も薄々気付いてはいたんだ。」

『わー!嘘、嘘!大丈夫だって!』

本当は、君のことが大好き。でも、大切に想いすぎて、傷付けるのが怖くて。本当のことは言えないまま。

『…じゃあ、もう一緒にはいられないね。』

「え!?なんで!?」

『その子に誤解、されたくないでしょ?』

「…。ごめん、名前さん。」

『それじゃ、バイバイ?』

君の隣で、ずっと笑っていたかったな、って。幼馴染み以上になれないことなんて、よく分かっていたつもりだったけど。

『思ってたより、ずっと辛いや…。』

青い空がにじんで見えた。この想いも、この涙も、青い空の向こうのどこか遠くまで、飛んでいけばいいのに。

『こうなったら、やけ食いだ…!!』

もう、優しくしてくれる人はいないから、自分で自分に優しくしよう。
本当は、この1年でアキラくんたちがどんな思いをしてきたか知っている。知っていても、何も出来なかった。そこを助けてくれた橘くんをアキラくんたちが尊敬するのも分かるし、そんな人の妹さんなら好きになるのも分かる気がする。

「あ、杏ちゃん!今度のライブのチケット、2枚取れたんだけど…。」

「杏ちゃん!今日はストテニ行かないの!?」

「杏ちゃん!」

「杏ちゃん!」

でも、あまりに執着しすぎじゃないのかな…。深司くんも呆れ顔だよ…。あそこまで、好きになれる子を見つけたってことは、いいことなんだろうけど。
あんな風に照れる顔も、ころころ変わる表情も、見たことないアキラくんがいっぱい。私じゃないあの子が、君の隣で笑ってる姿を見るだけで、こんなに辛い気持ちになるなんてね。

『あの子と比べて、私のどこがダメだったんだろうな…。』

呟くだけで、本人には聞けないまま。


「好きな子ができたんだ。」

あの日の言葉は、未だに私の頭をくるくる回る。傷は消えない、増える一方。

『…じゃあ、もう一緒にはいられないね。』

自分で言ったのに、相変わらず気付いたら目で追っているアキラくんの姿。辛くなるの、分かってるのにね。

あの日と同じ帰り道。今日は一人で歩く。もう、私に優しくしてくれたその姿はないけれど、ちゃんと自分で優しくしてあげられる。
あの日と同じ青い空。今日も一人で見上げる。この涙も、気持ちも、どこか遠くまで飛んで行け!


Chip Tears
(さよなら、私の初恋。)

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