混合 短編 | ナノ

「もし、もしもだ。あの世界に行けたとしたら、どうしたい?」

唐突に聞いてきた友人は、真面目な顔で続ける。
昼休み。屋上に、コーヒー牛乳の紙パックを銜えた私と、いちごミルクの紙パックを銜えた友人。眼下に広がる校庭から、校舎の中から聞こえるのは、はしゃぎ声と雑音。それは青春の証。
…まるで別世界。

「彼等は間違いなく実在しなくて、そして作者の手によって産まれた。それは紛れもない事実。でも、もし。それが現実として起こっている別の世界があったしたら。そこに何かの拍子で行けたとしたら…?」

『狂喜乱舞して喜ぶ。お近づきにならないと。』

「ミーハー女が嫌いってのが、公式設定でないとはいえ、その可能性が高くても?」

『あー、そうだな。でも、それ知ってるという特典を持ってるなら、対策は打てる。』

「…でも、今のままじゃ、きっと無理だろうな。」

『…そうだな。』

会いたい、と一言言ってしまうのは簡単だ。でも、言葉にしてしまえばすぐに、冷たい現実は私に牙を剥く。
所詮、次元が違うのだ。どんなに私が彼等を望もうと。近くにいると感じようと。彼等には決して届くことはない。
だって彼等は私たちとは違う。所詮、こちら側の人間――それも、私たちのような人間によって生み出された存在なのだから。

もしも、彼等が私たちと同じように生きる次元が、世界があったとしたら…?私がそこに行けたとしたら…?
今と変わることは出来るんだろうか。私の望む形で彼等と共に生きることはできるのだろうか。
…きっと私は変われない。今のままの私では、彼等の側にいることは出来ない。いつかみた小説のような、そんな簡単な人生にはできない。
愛されたり、嫌われたり、嫌ったり、恋して、愛して、嫉妬して。この世界で誰かがやっていることと同じこと。今でさえできないそれを、本当に何より愛する彼等にできるはずがない。

『私が書いた青学連載みたいな悲劇のヒロインも、四天連載の愛されヒロインも。』

「私が書いた立海連載の友情ギャグな人生も、氷帝連載の最強金持ち人生も。」

「『みんな、所詮は夢だから出来ること。』」

ここが現実、あちらは夢。
なのに、その現実世界に見放された私たちは、この世界の異端者。何故こんなにも好奇の目に晒されているのか。『テニスの王子様』じゃダメなんだろうか。他の、例えば今大人気の例の海賊漫画とか。あれらなら、好きであっても構わないのだろうか。

ほらまた一人、校庭の1人が私たちに気付いて指を指す。周りの仲間はそれに気づき笑う。「アイツらだろ、頭が変な女。」まるで声が聞こえてくるかのよう。時々思う、私たちの18年間はなんだったんだろう、て。

やっぱり、私たちにはこちらの世界から、誰かに愛され続ける彼等をみるのが、一番向いているんだろう。
言えるはずないんだ、会いたいだなんて。愛して欲しいだなんて。
だって、きっと私たちじゃ彼等の興味を惹ける対象にはなれない。コマの端に載るような…いや、それすら叶わない、ただの少女A。変わりたくたって、そうは変われない。一度はみ出してしまったら、もう戻れない。
いつまで経ったって、私たちは遠くから、ただ眺めるだけ。

「あんたがいなかったら、どうなってたことか。」

『私だって、同じ。よかったよ、出会えてさ。』

『「あっちの世界に行けなくても、彼等はちゃんと側にいるし。」』

昼休みの屋上にいちごミルクとコーヒー牛乳の紙パックをくわえた女が二人。
この世界のはみ出し者。


立入禁止区域
(世界は僕等の敵だった。この世界に存在するのは、私とあんたと、それから彼等)

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