「ねぇ、君。」
声が聞こえた。
見たことあるような、ないようなそんな道を歩いているときだった。私以外に人はいなくて、でも私に声を掛けたのか分からないから、そのまま歩き続けた。
「ねぇ、君。」
また、声が聞こえた。今度は肩に手を置かれたから、振り向いた。
そこにいたのは…、ここに、いないはずの…!!
『不二、周助…?』
「君、僕を知ってるの?」
『え、えぇ…。』
知っている。私は、彼を…。でも、何故?
「見たところ、僕と君以外に人がいないんだけど。ここがどこか知っている?」
『ごめんなさい、私も分からないの。気付いたら、ここを歩いていて…。でも、家の近所じゃなさそうだわ。』
「君の家はどこなの?」
『…ここではないところよ。』
「…僕の家もここではないかな。どうしてこんなところに?」
『分からないわよ、そんなこと。』
突然、目の前にいるはずの彼の顔が、歪んでいく。後ろに見える街並みも、さっきと違うものになっていく。
私だけが歪みの中で普通に立っている。…ここは、一体なに?
「あれ?君、どないしたん?」
今度聞こえてきたのは、さっきとは違う、関西弁。
『…忍足謙也、財前光。』
「あんた、何で俺等のこと、知ってるんや。」
人の良さそうな笑みを浮かべる忍足謙也と、睨み付けるようにこちらをみる財前光。
…彼等のことも、知っている。
『…分からない。どうして、ここにいるのかしら。』
「俺等も気付いたらここにおったんや。どこなんやろなぁ、ここ。」
「アンタ、誰や?」
『私?私は、#はるか#。』
「#はるか#ちゃんな。」
『私、さっきまで、不二周助と一緒にいたの。でも、ここは東京ではない…よね。』
「そりゃそうや。」
「不二周助?青学のか?」
『…たぶんそうね。見たことのある人だったから。』
「おい、謙也!!」
「ん?…侑士?」
「何で、お前がここにおんのや。」
「侑士こそ、何でおんねん。ここ、大阪でも東京でもないんか。」
『…忍足、侑士?』
「ん?なんや、えらい別嬪さんがおるやないか。謙也んとこの天才くんの彼女さんか?」
「何で財前の彼女やねん。俺の可能性はないんかい。」
「そんなもん、あるわけないやないか。」
『残念だけれど、財前光の彼女ではないわ。…この場所がどこか知りたいだけなのだけれど。』
「知らん人、いきなり彼女とか言われても困りますわ。その前に、アンタも誰やねん。」
また、世界が歪みだした。どんどん、彼等が遠くなっていく。
胸の奥で、行かないでっと思った。この痛みは、何なんだろう…。
今度は街じゃなくて、どこかの喫茶店の中のような場所。
「あれ?誰か来たぜぃ。」
「ホントだ。…誰っスかね?」
『…丸井ブン太、切原赤也。あなた達、何をしているの?』
「ケーキ食ってる。見りゃわかるだろぃ?」
「それよりアンタ、ここがどこか分かるか?」
この子達らしい…。そう思ったけど、何故そう思えたのかも分からない。
『さあ…。私も困っているのよ。』
「だよなぁ…。あ、お前もケーキ食う?」
『いただくわ。…さて、どうしたら帰れるのかしら。さっきから、私瞬間移動しているし。』
「はぁ!?瞬間移動!?」
『えぇ…。初めは不二周助といたの。でも次の瞬間には、忍足謙也と財前光がいて、そこに忍足侑士が現れた。そうしたら、次はここよ。』
「すげー!!なあなあ、#はるか#、次移動する時、俺も連れてってくれよ!!」
「丸井先輩、それは無理だと思うっス…。」
『ねぇ、どうして私の名前を知っているの?』
「は?」
『君、さっき私の名前呼んだわよね?どうして、名乗ってないのに、知ってるの?』
「そりゃ…あれ?何でだろ。」
「…そういやぁ、そうッスね。」
また歪んでいく。今度は誰に会うのかしら。
『ここは…海?』
「待ってたよ、#はるか#ちゃん。」
『…どういう意味かしら、佐伯虎次郎。』
「それはね、今日が何日か考えれば分かることだよ。」
『…今日?』
「今日は君の―――。それが、どういうことか、分かるよね?」
『あぁ…、そういうことね…。ありがとう…。』
最後に歪む世界の中で、たくさんの顔が見えた。みんなみんな知ってる顔で、大好きで仕方ない、王子様達。
気付けば、見馴れた天井があった。
『夢、ね…。』
長年願い続けたこと。それが、私の下らない妄想だったとしても、叶ったという思いは、きっとこの先も消えない。
夢でいいから、会いに来て。
(それは、愛しくて仕方ない、君達からの最高の誕生日プレゼントでした。)