比嘉 短編 | ナノ

8月27日。
今日は甲斐裕次郎の誕生日です。


『裕次郎、明日空いてる?』

「何でだよ。空いてるけど?」

『いいから、いいから。家にいてよ?』

「わかった。」

幼馴染みから電話がきて、明日家にいろと言われたのは昨日の夕方。

昼からやってきたあいつは何をするわけでもなく、家の縁側に座り込んだまま動かない。

「お前は何しに来たんだ?」

『暗くなってからのお楽しみ。』

何度聞いてもこれしか返事が返ってこない。もうかき氷は3杯目だ。

『あ〜、夏休みの宿題終わった?』

「終わってるわけないじゃん。写させて貰う。」

『やっぱりか〜。裕次郎が真面目にやってるわけないよねぇ〜。』

「そう言うお前は終わったのかよ。」

『私がやってると思う?知念に写させて貰うに決まってんじゃん。』

こいつは知念と同じクラス。知念は真面目だし優しいから(木手とかも真面目だけど優しくないからダメ)、いつもこいつの最後の拠り所になる。テスト前になるとオレの家で知念のノートに二人で向かい合うのが習慣(つまりオレの拠り所でもある)。
『夏休みも後ちょっとか〜…。』

「短いなぁ…。」

何度この会話を繰り返しただろうか。でも、今日は何日だったっけ?

『そろそろいいか…。』

「何が?」

『じゃーん!!これこれ!!一緒にやろ!』

そういって出したのは花火。
名前の持ってきてたでっかい袋にはそれが入ってたらしい。

『裕次郎、今日が何の日か覚えてないでしょ?』

「は?」

『今日は裕次郎の誕生日!まったく、そんなことだろうと思った。』

「あ…忘れてた。」

そんなこと、すっかり忘れていた。今日は27日か。ホントにもうすぐ夏休みが終わっちまう。
俺たちは暗くなった縁側で花火を始めた。打ち上げはさすがに出来ないが、袋に入ってたやつを全部やった。そして、やっぱり最後の締めは…。

「線香花火だよな〜。」

向かい合って、火薬の方に火を付けて持つ。
小さな火花を散らしながら、真ん中の球体が大きくなっていくのを静かに見ていた。

『ねぇ、裕次郎。私、本土の高校に行こうと思うの。』

「は?」

『勉強したいことがあるの。でも、ここじゃできないから…。だから、本土に行こうと思う。』

「そうか…。名前がそう決めたなら、応援する!!頑張れよ。」

よく考えれば、ガキの頃からずっと一緒で、そう広くない島の中。これからも離れることはないと思ってたし、高校だって島から出ることなんかこれっぽっちも考えてなかった。テニスさえ出来れば、本土もここも変わらない。きっと、テニス部の奴等だって、近くにある高校に通うと思うし。そうか、こうやっていつかみんな島を出ていくんだ…。

『でも、今日だけは、毎年8月27日だけは、ここに絶対来るから。裕次郎が島を出ても、裕次郎の誕生日は絶対に会いに行くから。』

だから、私のこと、忘れないでよね、そう名前は笑った。忘れるわけねぇのに。

「じゃあ俺も。お前の誕生日は、会いに行ってやるよ。約束だ。」

そう言って、俺も笑った。
線香花火は、もうとっくに全部終わってた。


きっと、来年の誕生日も。
(離れたって、お前と過ごすのは変わらない。)

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