山吹 短編 | ナノ

高校の帰り道、駅で幼馴染みを見た。

中学を卒業してから、2年経ったけど、今ままで一回もあいつを見ることなんてなかった。
あいつの家まで、私の家から距離にして数十メートル。たったそれだけの距離なのに。

懐かしく思って、声をかけようと思った。背中を叩いて、“久しぶり!!”とたった一言。

でも、その前に気づいた。あいつの隣に美人さんな女の子。

あぁ…、と思った。噂には聞いていた、何人目かの彼女。
中学の時もそうだったけど、その頃よりも多い彼女の数。あいつは告白してきたすべての女の子と付き合うから。

だから、見なかったことにした。背中を向けて、再び歩き出した。家に帰ろう。
あいつが、あの彼女さんを見送って、私が通るこの道を通って帰る前に。

小さい頃から、「名前、名前、」と私を追いかけてきてくれた彼を、邪険にしたのは私だ。
中学の頃、テニス部のエースと言われていた彼に、興味も示そうとしなかったのは、私だ。

…なのに、離れてから気づくなんて、遅すぎる。

別に遊んでるつもりじゃないんだ。清純は。
自分に好意を寄せてくれる女の子を、断りきることができないんだって。だから結局、遊びだと思われる。

なんて、私が弁解しても仕方がないんだけど。

確かに本人はあんなんだし、一度に何人もの女の子と付き合うこともあるけど。
でも、自分を想ってくれる女の子を邪険に何かできなくて、その結果みんなと付き合うことになる。

って、本人が言ってた。私だから知ってること。

でもじゃあ、この事実を知らない他の女の子が、他の彼女さんがさっきの状況を見たら?
結局それはその子の気持ちを裏切ったことにしかならない。きっとそれを、本人はわかってない。

だから、全部気のせいだ。

あの時、一瞬目が合ったような気がしたのも。今、私の目から何かが流れてるのも。
大勢の中の一人でもいいから、っと思ってしまったのも。本当は好きだった、と気づいてしまったのも。

全部、全部気のせいだ。

実際、清純は私を追いかけて来てくれないし、私が清純を何とも思ってないと思ってるだろうから。
だから、私は清純が追いかけて来てくれることを期待してないし、清純は私を何とも思ってないことを知ってるから。

だからもう、これでおしまい。

あいつと過ごした時間も。さっき見てしまった光景も。誰もが信じた噂も。
本当はどれも、私には関係のないものだったと信じればいい。

それでいいはずなのに。


何故だろう、涙が止まらない。
(悲しくなんかない、少し悔しいだけ。)

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