聖ルドルフ学院 短編 | ナノ

なんだかんだと理由をつけて、みんなで集まったように見せかけた夏の終わり。

『花火、やりたいなぁ…。』

友達と話してた時に私の呟いた一言で、いつの間にか花火大会が計画された。クラスの寮組のみんなが集まって、連れてこられた防波堤で今年最後の花火。

「よかったねー、裕太くん来てくれて。」

『は、はるきっ!!』

「ちゃんと話しろよー。」

引っ込み思案で臆病な私は、好きなのに不二くんと一度だって話せたことはなくて…。見かねた友達が計画してくれた今回。いつもは練習であまり遊べない彼が来れたのは珍しいんだって。

「打ち上げ行くよー!!」

「おしゃー!火つけるぞー!」

でも結局、打ち上げ系に火をつけてきゃーきゃー逃げるどさくさに紛れて、あなたのTシャツの裾をやっと掴めただけ…。

(あなたが好きです。私はここにいます。)

握った手からこの思いが届くはずはないけど…。もし、一度でも大きな声で言えたなら…。

「名字?」

『あ!ごめん、なさい…。』

「別にいいけどよ…。」

急いで不二くんから離れる。彼はすぐに違うところへ行ってしまった。…情けない結果でごめんね。
それからしばらく、少しみんなから離れたところに座って、様子を眺めていた。
はしゃぎ回るみんなは、まるで別世界にいるようで。きらきら輝いて見えた。私も、あんな風にいられたらなぁ…。
夏の最後を飾る、きらきら光る思い出と、それから…。

「名前、名前。楽しんでる?」

『え、うん…。まぁ。』

「せっかくのチャンスなのに、このままでいいの?また明日からは今まで通りだよ?」

『うん…、分かっては、いるんだけどね…。』

明日からは学校、今日は夏休み最後の日。特別にちょっとだけ伸ばしてもらったけど、もうすぐ寮の門限。
きっと、このままだったら、明日からも私は彼をただ遠くから眺めるだけ。…本当に、それでいいの?

「だったら、っあ!!」

『何?』

友達が見たのは、彼に火の粉が飛ぶ瞬間。彼の指に出来た小さな火ぶくれ。
背中を押された私の手には、そんなこともいつかあるかも。と、思ってずっと握っていた絆創膏。

『ふ、不二くん!よかったら…、あ。』

「どうした?」

『ううん、なんでもない。』それは出したら恥ずかしいくらい、もうボロボロだった。

(あなたが好きです。私はここにいます。)

一度でもいいから、大きな声で言えたなら…。彼の瞳が私じゃない誰かを描くその前に。

「不二ー、ちょっと来いよー。」

「おぉ、今行くー。」

いつも遠くから眺めてるだけだった。だから、今日だけは。

小さい裁縫セットだって、いつも鞄に入れてる。…でも、そんな良いタイミングでボタンなんて取れないし。
料理だって、食べられるものくらいはできるようになった。…でも、食べてもらうタイミングなんてないし。
不二くんの好きなタイプがどんな女の子はわかんないけど。

でもせめて、もっと積極的になれたら、なんて…。
あなたが好きです、私はここにいます。もし一度でも言えたなら…。

「名字さんも!こっちおいでよー!」

『う、うん!行くよ!!』

あなたが好きです、私はここにいます。もし一度でも言えたなら…、何か変わるのかな?

『あ、あの!不二くん!!私と、お友達になって、くれませんか…?』

「ん?おぉ、いいぜー。」

線香花火を彼の隣で。これから、もっと近づけるように。


もしもし、聞こえますか?神様でも、未来の私でも。
思い出を笑えてますか?ただ臆病だった恋を笑えてますか?
恋人はいますか?今と違う自分になれていますか?

…ここでアピールしても、ダメですよね?


砂浜に描いたLOVE
(頑張ったじゃん、名前!)
(名前にしちゃ上出来だよ!!)
(これから、もっと頑張っていかなきゃね。)

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テーマ「人外ファンタジー」
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