父さん、母さん。今までごめん。
兄さん、姉さん。それじゃあまたね。
靴の踵を踏み潰したまま、家を飛び出した。
「由美子は美人で、」
「周助は頭が良くて、」
俺の兄弟は、親の期待を背負って育った。俺はいつもその姿をただ後ろから眺めるだけだった。
あんな期待かけられたって、俺には応えられなかっただろうし、正直面倒だった。
だから別にいい。俺は俺のやりたいようにやる。…それは、見えを張っていただけだったのかも知れないけど。
でもその分、俺への愛も薄かった。
「裕太、ラズベリーパイ焼いたけど、食べる?」
「裕太、テニスしに行こうか。」
姉貴と兄貴はそんなことを知ってか知らずか、俺にかまう。ほっとけよ、何回そういったことか。でも、結局いつも甘えていた。愛されたいと思っていたのか、強引なだけの兄弟に逆らえなかったのか。どっちでもいいけど、そんなんじゃダメだった。
きっと俺じゃなくたって誰だって代わりになれば良かったし、親には姉貴や兄貴がいればそれで十分だったんだろう。
“聖ルドルフに来ませんか?裕太くん。”
みなさん、さようなら。
先生、お元気で。
高鳴った胸によだれが垂れる。
何処へ行っても、俺は不二弟でしかなかった。姉貴とは年が離れていたから兎も角、周りは兄貴、兄貴って。青学に入ったものの、テニス部には入らずスクールに通った。
「青学って聞いたことあるだーね。」
「関東の強豪校ですよ。」
「クスクス、関係ないや。」
この人たちなら、俺を俺自身として見てくれる、そう思った。そのはずだった。正直者は馬鹿を見るとはこのことか。
初めから、この人たちにとっても、やっぱり俺はただの道具か。
“打倒兄に燃えるバカ弟は、単純で操り易かったよ”
もう何も無い。親には見捨てられた?もう何も無い。信じた人には裏切られた?
帰る場所すら何処にも無いんだよ…!!
存在証明。
俺はやっぱり甘えてばかりだ。親に甘え、兄弟に甘え、先輩にも甘えてた。
じゃあどうする?
今までと違うやり方を見つける。変われない?飼われたい?何も無い?
こんなの俺じゃないだろ!
姉貴や兄貴はやっぱりすげえ。俺じゃ代わりに何かなれない。観月さんや赤澤部長の代わりにだってなれない。
でも、いつかは超えてみせる。俺は俺自身の活躍で。
東京テディベア
(裕太はスポーツ万能。3人ともさすが私たちの子供ね。)
(君の成長は僕たちにとって新たな飛躍となるんですよ。)
(俺の代わりは誰にもできない、なんていつになったら言えることか。)