四天宝寺 短編 | ナノ

第三次世界大戦――。
それは静かに始まった。一般市民には分からない、水面下で。
でも、確かにそれは行われていて、私と彼に“しゅうまつ”がやってくる。


テレビから流れるニュースは、国中の偉い人が集まって、机に向かって会議する、それだけ。
それじゃ、何も変わらないのにね。現状はそこにいかないと分からないのに、知ってるフリ。

でも、私達の日常にはこれといって影響はない。いつもと同じ様に学校に行く。
彼がやってくる曲がり角で、今日も偶然を装う。

『あ、おはよう、謙也くん。偶然だね!』

「お〜、名前。おはようさん。」

君の左側をキープして、学校まであと5分。私にだけ向ける笑顔が宝物。

「本当に戦争してるんかな…。」

『全然分かんないよね。』

世界がどうなっちゃうとか、全然実感わかないよ。
終末がやってくる。そんなこと別に、興味ないんだ。

『でも、こうしていられれば十分だよね!!』

「お、おん…。そう、やな。」

ただ君との距離が今、肌と両手に伝わる幸福感。
あぁ、この気持ち。早く彼に伝えなきゃ…。

『あの、さ…、』

「ん?」

『よ、よ、よかっ』

「よ?」

『よ、よい週末を…!!』

今日の学校が終わったら、明日からはお休み。
週末がやってくる。今度こそ気持ち、伝えなくちゃ…。

週末が来たって、終末は来ないと信じてたんだ。

世紀末の大予言、ノストラダムスもマヤ文明もきっと大ハズレ。
終末論なんてきっと、人間を驚かそうとした、宇宙人か何かのいたずらでしょ?


テレビから流れるニュースは相変わらず。国中の偉い人が集まって、机に向かって会議する、それだけ。
なのに、勝ってるとか負けてるとか、いつ終わるのかとか、何で始まったのかとか、全部隠して知らないフリ。

でも、私達の日常にはこれといって影響はない、はずだった。いつもと同じ様に学校に行く。
彼がやってくる曲がり角で、今日も偶然を装う。

…でも、いつまで経っても彼は来ない。

『どうして、どうして、どうして…!!』

君は突然“遠く”に行ってしまったんだ。私の知らない、ところへ。
大人たちのヒトコトで。
コウフクロンなんてちり紙で。

世界がなんて知らないよ!!戦争?天災?知らないよ!!
終末がやってくる。そんなことホント、興味なかった。


あの日に、君は終末が来ることを知っていたの?

またここに帰ってくるの?

君が好きなんだ!!


抑えきれない想いを手紙に書いた。1通じゃ足りなくていっぱい、いっぱい書いた。…でも、どれだけ書いても、君に届かないんだ。

君との距離が今、肌と両手に伝わる喪失感。

あれから、また1週間。また週末がやってくる。どうしよう、気持ち伝えなかった。
終末がやってくることなんかより、週末がやってくることの方が。気持ち伝える前に会えなくなるなんて…。


渡せないまま貯まっていく手紙。ついに両手に抱えきれなくなった。
送る相手?知らないよ…。いっそ、世界中にばらまいたら、1通くらい届くかなぁ…。


しゅうまつがやってくる!愛のうたひとついかがですか?私の代わりに、彼の代わりに。どこかの誰かが、ちょっとでも笑顔になれるような世界なら。

終末がやってくる!君はもう私のところに、やってこないのにな。
週末がやってくる!君には、もう、やってこないのにな…。

終末がやってきても、もう二度とこないで。大嫌い。
…これ以上、大切な人を失う誰かが出ないように。

週末がやってきても、もう二度とこない誰かの笑顔。
…もう、二度と失われた笑顔は戻らないんだ。


しゅうまつがやってくる!
(ぼくらの戦争は、まだ終わらない…。)

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