あなたのことは何でも知ってると思っていた。不器用なことも、猫舌なことも、電話が苦手なことも。
『ユウジ!!』
「…名前。どないしたんや。」
『一緒に帰ろー。』
「…すまん、これから部活や。」
『…そっか、頑張ってなー。』
幼馴染みのユウジのことが大好きで大好きで。ずっと、ちっちゃ頃から大好きやった。
泣き虫でいじめられっ子やった私をいつも助けてくれたのはユウジで、私が泣いていると側に来て笑かしてくれた。
ユウジは言っていた。
(ユ)『オレのギャグみて笑ろうてくれる奴が好きや。』
ユウジといると楽しくて、いつも笑顔になれた。これからもずっと一緒にいれると思っていた。
私はユウジとは違うクラス。だけど、ユウジに会いたくて休み時間はいつもユウジのクラスにいた。
「ウチ、一氏くんの大ファンやねん。」
「ホンマかー、そりゃ嬉しいわ。」
ユウジのクラスは前の時間に席替えをしたらしく、いつもと違うところにユウジはいて、隣りの席の女子と話をしていた。…私よりずっと可愛い…違う。私よりずっと笑顔の可愛い子。ユウジはその子に得意のモノマネやらを披露してて、笑顔でずっといた。
ユウジのあの笑顔は、小春ちゃんや私にしか見せなかった、特別な笑顔…。
(ユ)『それで、小春がそん時な…。』
『ユウジ…。』
(ユ)『なんやねん。』
『小春、小春、小春って…。小春ちゃんばっかりやんか!!浮気か死なすど!!』
(ユ)『なんでお前がオレのマネしてんねん、逆やろ、逆。』
歩き方やしゃべり方をマネしながら歩いた帰り道。小さなことですねたり、怒ったり。しかも私はすぐに泣く。その度にユウジを困らせてばかりやった。もっと、素直になれたらよかったのに。
「名前。」
『ん?何?』
「S-1GP、おもろかったか?」
『おん!やっぱ、ユウジと小春ちゃんが一番や。…でも、あのネタ。』
「お前が泣いてた時にいつもやってたやつや。ホンマはやる予定やなかったんやけど。」
『…何で?』
「お前が泣きそうな顔で見とるから、急遽予定変更したんや。ドアホ。」
『アホ、言われたって…。』
いつも、ステージにいるユウジを見るのは好きやった。でも、今日は違った気がした。ユウジが、遠くの人に見えたんや。
「…今日で、お前を笑かすためのお笑いは最後にした。」
『…え?』
「…お前はオレのファン一号や。んで、幼馴染み。それは、一生変わらん。困っとったら、出来る限りの範囲で助けてやる。」
『…。』
本当はずっと前から分かってたのかも知れない。すれ違ってたことも、彼の笑顔が私に向けられなくなってたのも。
「だから、明日からは友達や。」
あなたがもう私のことを好きじゃないってことも。
泣いてばかりの私はユウジに甘えすぎた。そんな私に嫌気がさしたのかもしれない。
私よりずっと笑ってくれる隣の席のあの子のことが好きになったのかもしれない。
分かったのは、私といてもユウジが笑顔になれる場所はない、ということ。
あなたは友達。今日から友達。もう二度と好きなんて言わないから。隣歩いたりしない、用事もないのに電話しない、君の前では泣いたりしない。だから、
「じゃあな、名前。」
サヨナラなんて、言わないで。お願い。
桜並木を歩いて、海辺で花火を見上げて。枯葉散る時も、真っ白な雪の日も。いつもあなたがいてくれた。それだけは忘れたくない。机の上の二人で過ごしたたくさんの思い出だけが、キラキラ輝いていた。
初恋は叶わない
(初恋は叶わない。友達でいいから、特別じゃなくていいから、これ以上遠くにいかないで。)