立海大附属 短編 | ナノ

何もないと思っていた。

「最近、赤也と連絡取れないんだけど…。何か知ってる?」

『いや…私は何も聞いてないですけど…。』

最近、あーちゃんが学校に来ない。サボってるのか、何か用があるのか、それすらも分からない。
幸村先輩たちテニス部の人がときどき私に聞きにくるけど、私は何も知らなかった。

「先日、切原くんのお姉さんが亡くなりました。」

けれど実は、私たちの知らないところで、彼だけが辛く苦しい思いをしていた。
あーちゃんには歳の離れたお姉さんがいた。あんな性格だけど、あーちゃんはお姉さんをすごく大事にしていた。それは、切原家を知っている人なら誰でもわかること。
…その、あーちゃんのお姉さんが亡くなった。
しばらく来なかったのはそういう理由があったんだ。短かったはずなのに、長い間会っていないような気がした。彼が今どんな思いをしているのか、分からなかった。

あーちゃんの家と私の家は家族ぐるみの付き合いがあった。所謂、幼馴染み。中学に入る少し前から、離れていったのは彼の方だけど、それでも親同士は仲がいいから、そんなことは関係なかった。年に1回は一緒に旅行に行き、月に1回は食事会がある。
…私だって、お姉さんとは仲が良かった。私には兄弟がいなかったから、本当の姉のように思っていたし、お姉さんも妹のように可愛がってくれていた。でも、何で?どうして?としか思えなかった。あーちゃんに何て言ってあげよう、何ができるだろう、そればっかり考えてた。

やっと会えた時、何も変わらないあーちゃんに、ホッとした反面、余計にどうしたらいいか分からなかった。何もしてあげられなかった。何もしてあげられなかった。もう、お姉さんはいないんだね…。

「なんだよー、やめろよ!」

ポン、ポンと頭を叩いてあげることが、私に出来る精一杯だった。私に出来ることは、何もないと思ってた。
あーちゃんには、仲間がたくさんいた。私なんかより、よっぽど彼について分かってあげられる人がいた。でも、それでも彼は救われなかった。

お姉さんが大好きだった曲を聴きながら、今日も私は眠りにつく。
お姉さん、今何を思っていますか?私の声は、あーちゃんの想いは、届きますか?

冬の始まる少し前、あーちゃんの大好きだったお姉さんがいなくなった。



何かあると思っていた。

「また最近連絡が取れないのだが、知っているか?」

『…すいません、私は何も…。』

最近、あーちゃんがまた学校に来ない。サボってるのか、何か用があるのか、それすらも分からない。
真田先輩たちテニス部の人がときどき私に聞きにくるけど、やっぱり私は何も知らなかった。

「昨日、切原くんが亡くなりました。」

何を言っているか分からない、理解できない。
もういない?あーちゃんが?今度こそ一緒にいてあげようと、嫌がられても一緒にいようと思っていたのに?どうして?なんで?疑問ばかり増えていく。すすり泣く声が聞こえる。
嘘でしょ?みんなを騙そうとしてるんでしょ?まさか自殺?お姉さんを追ったの?どうやって?私も連れてってよ、私だって死にたいよ?

昔から、死にたがりだった私に、いつも本気で怒ってくれたのはあーちゃんだった。命を大事にしろって、死にたいなんていうなって、自殺なんてもっての他だって。そういってたはずじゃない。自分がいったこと、自分で破ってどうするの。ねえ、答えてよ!このバカ也!!
辛いよ。切ないよ。寂しいよ。苦しいよ。泣きたいよ。いつでも言えると思ってたこと、ありがとうとかごめんとか。何にも伝えられてないよ。
今何してるの、何したいの。私はまだここにいるよ?私より先に居なくならないでよ。愛してた。いや、愛してる。
いつでも傍にいて、笑っていてくれた。泣いている時も、怒っている時も、嬉しい時も、楽しい時も、苦しい時も、笑っている時も。あの優しいぬくもりがもうない。
今だって傍にいてほしいよ。何で私がこんなに苦しい思いをしてると思ってるの?

― ― ― ― ― ― ―
『あーちゃんとあかや、どっちがいい?』

「きりはら。」

『じゃああーちゃんね!決まり!』
― ― ― ― ― ― ―
『どうしたの?こわいゆめでもみた?』

「ちげーよ!おまえがひとりじゃかわいそうだからだ!」

『じゃあいっしょにねよー?』
― ― ― ― ― ― ―
「よっしゃー、おれのかちー!」

『もっかいやろうよ!』

「なんかいやってもこのゲームじゃおれにはかてないぜ!?」
― ― ― ― ― ― ―
「テニス始めたんだ!お前も一緒にやらねえ?」

『それはさすがについてけないかな…。』

「そっか…。ちゃんと俺の応援しろよ!!」
― ― ― ― ― ― ―
『どうした?』

「もっと…強くなりたい。あのバケモンを倒せるように…!!」

『大丈夫、あーちゃんならできるよ。』
― ― ― ― ― ― ―
「そのあーちゃん、ての、いい加減にやめろよ。」

『えー、可愛いじゃん。』

「そういうこと言ってんじゃねえよ!!」
― ― ― ― ― ― ―

あーちゃんの大好きだった歌。本当は言えなかったけど、私も好きな歌。だって、あーちゃんが好きだって言ってたから。
あーちゃんが大好きだった曲を聴きながら、今日も私は眠りにつく。

今何してるの?何したいの?私はまだ、ここにいるよ?伝えたいこと、いっぱいある。もっと一緒にいてあげられたら、何か言ってあげられていたら、後悔ばっかり。
届かないことも分かってる、もちろん返事だって来ない。でも、私の想いを伝えるよ。…愛してる。
あーちゃん、今何を思っていますか?みんなの声は、私の想いは、届きますか?

今年最初の雪が降った日、私の大好きだったあーちゃんがいなくなった。


切なく降り積もる雪のように眩しすぎて。次に生まれるときは、強く生きてゆく花のように…。幸せになれ!!
切なく降り積もる雪のように眩しすぎて。人の命は儚く解けてゆく音のように…。私は、泣かずにいるよ。

VOiCE
(私は君のところに、やっぱりまだ行く勇気がないまま。)
(迎えに来てって、私も連れて行って、って言ったらやっぱり怒るのかな。)

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