いつか、彼は言っていた。「お前には何でも話せる」と。
それが、どれだけ残酷なことか、君は知るはずもなかったでしょう。
「俺さ、アイツが好きなんだよなぁ…。」
『今更そんなこと言われなくても、知ってるわよ。』
「いや、何か、しみじみ感じてよ。」
そう言って、歩いた帰り道に、彼は帰らぬ人となった。
彼にとって、私は友人で。私にとって、彼は大切な人で。彼にとって、あの子は大切な人で。私にとって、あの子は友人で。
三角関係?そんなもんじゃない。だって、彼等の間に私の入る隙などなかったから。
〜部活の終わった時間がたまたま一緒だったから、たまたま一緒に帰っただけ。いつもは、彼とあの子が二人で帰っていたのに。〜
もしも、あの子になれたのなら、私は迷わずそれを選んだでしょう。でも、彼の側にも、あの子の側にもいたくって、私は嘘をつき続けた。
苦しい?そんなはずない。だって、私がそれを望んだんだから。
〜私が道に飛び出したりしたから。赤信号に気付かずに横断歩道を渡ろうとするなんて、いつもの私じゃありえないのに。〜
夜中に電話したこともあった。いつだって彼は優しくて。その優しさは、本当は、誰にだってしていいものじゃない。私みたいにその優しさを勘違いする人がいるから。
自惚れ?確かにそうだ。私は、いつか彼が私を見てくれるかもしれないと、ずっと思っていたから。
〜一緒に帰れると思っただけで、こんなにもテンションが上がってしまった私は、彼を巻き込んでしまった。私なんかより、ずっと、未来があったのに。〜
「俺さ、アイツが好きなんだよなぁ…。」
『今更そんなこと言われなくても、知ってるわよ。』
「いや、何か、しみじみ感じてよ。」
『何よ、自慢なら、他に行ってやりなさいよ。』
「そんなこと言うなって。ん…?おい、待て!!名前!!」
『何、よ?』
“ド―ンッ!!”
君しか、見えなかった。
君しか、見えてなかった。
気付いた時には、真っ白な部屋にいて。
さっきまで、道を歩いていたはずなのに。君の隣を歩いていたはずなのに。
最後に見たのは、振り向いた先の切羽詰った顔と、突き飛ばした腕と、宙を舞う体と、広がる赤い、紅い…。
『あ…、あぁ、あぁ…、あ゛――――――!!』
君の、血…。
私が目覚めたのは3日後。もう、全てが終わった後だった。
助かるはずがなかった。
だって、あの道に信号はあの場所しかない。大抵の車はかなりのスピードを出して走ってくる。トラックからあの位置に人がいるのに気付いたって、ブレーキは間に合わない。
彼は、私を庇って死んだ。私が彼を殺した、殺したんだ…!!
もう、二度と、試合に勝って喜ぶ彼を抱きしめることは出来ない。
もう、二度と、私を呼ぶ彼の声を聞くことは出来ない。
もう、二度と、彼に会うことは出来ない。
私は大嫌いな闇の中。何も見えない、何も聞こえない、真っ暗な闇の中。
会いたくて、会いたくて仕方ない彼を追いかけて探した。
どんなに探しても、彼の背中の端も見えない。
彼は私を恨んでいるだろうか、自分を殺した私を。声など聞きたくないだろうか。顔など見たくないだろうか。
あぁ、この声もこの体もあの時捨てればよかった。
彼が死ぬことなんて、なかったのに。私があのまま、死んでしまえばよかったのに。
一つだけ、願えるのなら。
(一度でいいから、嘘でもいいから、君に好きと、言われたかった。)
(…そんな日が来るはずないことを分かっていたから、私は彼を殺したのかも知れない。)