「別れよう、名字。」
『…は?』
「別れよう。」
『ちょっと待ってよ、え?何でそうなったの?』
「飽きたんだよ、お前に。」
『そ、そう…。』
そういって跡部が私の前から消えて3日。
広がったのは、私が彼と別れた噂と、彼に違う彼女が出来た噂。「飽きた」とそれだけを伝えていったけど、本当はに好きな女が出来ただけ。本当の理由を言ってくれれば、もっと納得できた。あなたを諦めることが出来た。
…私なら、あなた無しでも歩いていけるはず。あなたの目を殺めた誰かとは違う。
『…何の用、跡部。』
「あぁ?お前を俺様の女にしてやる、名前。」
特に関わりがあったわけではない。突然私の目の前にやって来て、それだけを言い放った、半年前。
突然何だ、とも思ったけど、それからの日々が私にとって、大切だったことは確かだった。
氷帝に通うのは、金と地位のある人間が多い。今までにそういう男と付き合ったことはある。でも、跡部は別格だった。毎朝迎えに来るときは、運転しづらそうな長い長いベンツ。遊びに行くとなれば、遊園地でも舞台でも貸し切りだった。でもそんな、わがままで、ナルシストで、どうしようもない男を愛してしまったの。
『跡部。』
「…何だ、名字。」
『新しい彼女とは順調?』
「…何の話だ。」
…何もかも嘘で丸めて隠し通すつもり?汚れた手に凭れる誰かと生きて。
『…どういうこと?』
「俺様の女に手を出したらどうなるか、奴等もこれで分かっただろ。」
跡部と付き合い出した頃、私がイジメにあったことがあった。とは言っても4、5人の女子にリンチにあった程度だけど。
跡部はそのグループの頭首だった少女の親の会社を潰したのだ。跡部の家には確かにそれだけの力がある。
でも、その会社を守ろうとした何も知らない他の会社まで潰してしまった。
テレビの緊急ニュースにもなったけど、真実は報道されることなく終わった。
惜しみ無く愛して、惜しみ無く憎んであげる。
『愛していたのに…。』
晴天の淵から大粒の嵐が降りた。降り積もる水の重さごと、あなたを潰しましょう。
『愛して、いたのに…。』
この胸に走った痛みなど拭ってあげる。
『残念ね、跡部。』
あなたが触れた体が元通りになるまで。
誰かを正しく愛せる私に戻れるまで。
…あなたに牙を剥いて生きていく。
「な、んだ。」
『私を捨てた、あなたが悪い!!』
「やめ、ろ。」
『忘れないで…私は一生、あなたを憎んで生きていく。』
彼の首から手を放す。もう二度と、私が彼を捕らえることはない。現状は変われないなら、私が変わるしかないでしょう?
愛と憎しみは表裏一体
(こんな私を、どうぞ笑って?)