天国からの歌声 | ナノ

あの日、俺の前に突然現れたあいつ。いつの間にか大切な存在になっていた。
でも、現れた時と同じように、今度は突然、消えた。


俺があいつに出会ったのは氷帝の幼稚舎に入るよりも前のことだった。

『となりにひっこしてきたこまつひまわりです。なかよくしてください!』

ある日突然隣の空き家に人が入った。俺はまだ幼かったから、そこがいつから空き家だったとか覚えてないし、向日葵が来た日がいつだったのかも全然覚えていない。でも、そう言って笑ったあいつの笑顔だけは今も忘れていない。

その日から、何故か俺の後ろにべったりくっついて離れなくなった向日葵を、初めはうっとうしいと思うこともあった。

「おまえはなんでおれのうしろについてくるんだ。」

『えっとね…わかしくんとなかよくなりたいの!』

天然なのか、ただのバカなのか、あいつは俺がうざがっていることも気付かず、やはり笑った。
向日葵は、いつだって笑っていた。
俺がどんなに酷いことを言っても、転んでも、イジメられても、いつもただ笑っていた。

気付けば、向日葵と出会って1年。俺は1度もあいつが泣いているところを見たことがなかった。

幼稚舎に入っても相変わらず向日葵は俺の後ろにいて、他にも友達はできていたはずなのに、俺の側を離れようとしなかった。俺もいい加減慣れてきて、幼馴染みっていうものなんだと認識した。ただ、俺はいつも笑っているあいつが若干気に食わなくて、いつも冷たくしていた気がする。
そういう俺にはあんまり友達ができなくて、というか作ろうともしなかったから、向日葵が一緒にいない時は基本的に一人だった。…つまり、浮いていた。

そうやってまた年が過ぎて、それでも俺達の関係は相変わらず。だんだんクラスの奴等も俺が気に食わなくなったのか、向日葵に言った。…否、俺にも聞こえるように、向日葵に言った。

「ねぇ、向日葵ちゃん。どうしていつも日吉くんと一緒にいるの?」

『え?若は私の大切な友達だからに決まってるじゃん。』

「でもさー、日吉くんて、正直ウザくない?いつもブスーってしてて愛想ないしさ、クラスでも浮いてるじゃん?」

『…。』

「あんまり関わらない方が良くない?私、あの子あんまり好きじゃないな。」

『な、んで…?』

「…え?」

『何でそんなこと言うの!?○○ちゃんが若の何を知ってるの!?本当はすっごい優しくて…、クラスの中に入っていけないのは、みんなが自分のこと避けてるって分かってるから入っていけないだけなのに、それ、なのに…。』

俺は向日葵が怒っているのをその時初めて見た。そして、泣いているところも。

「…向日葵。」

『若…。』

「もういい。」

俺は向日葵がいつも笑っている理由が何となく分かった気がした。
いつも笑っていた向日葵は、本当は自分の事で泣くんじゃなくて、人のために怒ったり泣いたりする奴なんだって。
…本当は俺の側にいて、いつも泣いていたのかも知れない。

それから俺は嫌いだったはずのあいつの笑顔がいつでも見れるように、あいつを泣かせたくなくて、人と関わるようになった。テニスをするようになって鳳や樺地と仲良くなったし、先輩達とも仲良くなった。
こうして、俺と向日葵だけだった俺の世界はずいぶんと広がって、あいつを泣かすものなど、もう何もないと思っていた。なのに…、それなのに…。

「バカだろ、俺。」

俺がテニスに気を取られている間に、気が付けばあいつはいなくなっていた。
一番大切だったはずなのに、あの日から俺があいつを守ると決めたのに。
出会ったあの日の笑顔は、今も覚えている。
俺のために怒って泣いたあの日の事も、まだ忘れていない。
それなのに、俺は…。

「お前、今は誰のために歌っているんだ?」

あいつが死んでから毎日、あいつの歌が聞こえてくる。きっと、自分のためじゃなくてまた誰かのために泣きながら。

「それなら、今度は俺達がお前のために泣いてやるよ。」

俺の隣の家に、今いるお前は写真の中。やっぱり笑っているお前の笑顔に、俺は涙を流しながら誓った。


君に出会ったあの日のことは、今でも宝物。
(そして、これからも一生忘れることはない。)


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