天国からの歌声 | ナノ

あいつがいなくなったなんて、信じられなくて。
あいつの姿を探さずには、いられないんだ。


向日葵が死んで、1週間が経った。学校生活も、部活も、だんだん向日葵がいた頃のように戻っていった。…俺達以外は。
俺達は、誰一人としてあいつが死んだことを認められずにいた。
跡部はずーとカリカリしてるし。
宍戸はずっと思いつめたように喋んないし。
ジローはなんか寝る時間が短くなってるし。
日吉はレギュラーそっちのけで練習しかしてないし。
鳳は前に比べて倍くらいボーっとしてるし。
樺地は…分かんない。
みんな何かどうかヤバイけど、1番ヤバイのは侑士だ。侑士は、この1週間、学校に来てない。
誰が気付いてたか分かんないけど、侑士は向日葵が好きだった。絶対、確実に。大丈夫かな、侑士…。

「おい、向日!!余所見してんじゃねーぞ!!」

「っ!ゴメン、跡部。」

「やる気のねー奴は来るんじゃねえ。」

やる気がないわけじゃない。ただ…、どこからか聞こえてくる、誰かの歌声を聞いてたら、“あぁ、もう向日葵はいなんだ…。”って、嫌でも感じちまったんだ。

「休憩!」

「はい!!」

「向日。集中出来ねーなら、帰っていいぞ。ついでにあいつ等も連れて行け。」

そう言って跡部が指差したのは、宍戸とジローと鳳と日吉。

「…いいのか?帰っても。跡部、大丈夫かよ。最近ずっとその調子だぜ?」

「俺様が何か問題のあるようにみえるか?」

「見えるから言ってるんだって。」

「ハンッ。人の心配より、自分の心配しやがれ。」

他の奴らには跡部はうざい奴に見えると思う。俺様で、ナルシストな上に派手好きで、よく怒鳴る。俺だってうざいって思うときもあるし(内緒な)。
でも、本当はいい奴なんだ。今だって、跡部なりにあいつ等の心配をしてる。自分は何でもないフリして、自分の心配をされないようにしてる。だから、俺が言ったとき驚いたような顔をしたんだ。俺等の付き合いの長さを舐めんなよって感じだぜ。さっきの言葉、そっくりそのままお前に返してやるよ。
ま、あえて言わねーけど。

「わりぃ、跡部。おい、宍戸、ジロー、鳳、日吉!帰るぞ。」

「何でだよ!おぃ、跡部。俺等まだ練習してんじゃねーか!」

「…俺も納得できません。」

「お前等、自分の顔鏡で見たか?しばらく寝てねーんだろ?そんな奴らがいても練習になんぞならねぇ。」

「でも、跡部さん…。」

「もういいじゃん!跡部が帰れって言ったんだ。…帰ろうよ。」

「「「「「…ジロー(さん)(芥川先輩)。」」」」」

「じゃ、帰るね。バイバイ、跡部。」

「あぁ。気をつけて帰れ。」

俺はフラフラと部室に向かって歩くジローの後ろ姿を見送る事しか出来なかった。

「…悪い、跡部。俺も帰るわ。お前も気をつけろよ。」

「すみませんでした。…俺も帰ります。」

「…失礼します。」

3人もジローと同じように部室に向かって歩いていった。

「…向日。お前に頼むのも変だが、あいつらを頼んだ。家まで送らなくてもいいが、せめて見送ってやってくれ。」

「…分かった。じゃぁ、俺も行くわ。跡部、倒れんなよ。お前まで。」

「お前がだろ。じゃあな。」

そう言って跡部はコートのほうに戻っていった。


「じゃーな、宍戸、ジロー、鳳、日吉。」

「あぁ、じゃあな。」

「バイバイ、岳人。」

「さよなら、向日さん。」

「…また。」

「明日も来いよー!」

そうして3人は帰っていった。俺は1人、家までの道を歩きながら考えていた。

“俺が向日葵に出来たこと。”
“俺があいつ等に出来ること。”

向日葵は合唱部の部長だった。2年生だけど、3年生がいなかったから。誰よりも歌が上手くて、その姿は少なくとも俺には輝いて見えた。文化祭の発表でソロをするのはいつもあいつだった。

そういえば前に、あいつとこんな話をしたことがあった。


向日葵が俺の知らない歌を歌ってたから、気になって聞いてみたんだ。

(岳)『その歌いいな。誰の?』

『ん?私が作ったんですけど…。』

(岳)『え!?お前が作ったのか?』

『はい。…私、歌手とか作曲家が作った歌って、あんまり歌わないです。』

(岳)『へー。…何で?』

『…うーん。そう言われると、上手く説明できないんですが…。その時の気分で歌いたい感じの曲って違いますよね?』

(岳)『うん。』

『例えば良い事があった日は明るい感じの曲を歌います。でも、暗い気分の時には明るい歌なんて歌おうと思わないじゃないですか?』

(岳)『おぉ。』

『でも、歌手とか作曲家が作った歌って、あんまりそうゆう暗い感じの曲ってないんです。いつもハッピーエンドで終わる、みたいな。だから、“自分で作ろう”って昔思ったんだと思うんですよね。…あんまり覚えてないんですけど。それから、自分で作った歌ばっかり歌ってるんです。人に聞かれるとちょっと恥ずかしいですけど。』

(岳)『へー。』

『それに、人が作った歌よりも自分で作った歌のほうが思ってることが伝わりやすいと思うんです。“うた”って言葉の語源は“うったえる”なんですよ。』

(岳)『…知らなかった。』

『あ!…すみません。岳人先輩には退屈な話でしたよね。』

(岳)『別に、そんなことねーよ。』

『本当にごめんなさい。1人で話しまくっちゃって。』

(岳)『いいんじゃねーの?そーゆうのも。好きな事の話は、いくらでもしたくなるもんじゃん。』

『ありがとございます。ヘヘヘ…。』

(岳)『何で今度は笑ってるんだよ。…変な奴』


「…っ!思い出した!!」

(跡)『何だ、向日。』

「あ!跡部、突然電話なんかしてごめん。まだ部活中?」

(跡)『終わったところだが…。何かあったか?』

「思い出したんだよ!!今日の部活の時間、どっかから聞こえてきた歌、跡部知ってるか?」

(跡)『いや。歌なんか、聞いてないが。お前は部活中にそんなことをしてたのか?だからお前は…』

「分かった!説教なら今度聞くから!その歌な、前にあいつが歌ってたんだ。」

(跡)『っ!?…それで?』

「あいつ言ってたんだこの歌、自分で作ったんだって。その中でも、1番お気に入りなんだって。今1番伝えたいことなんだって。」

(跡)『…。』

「そして、俺が聞く限りそれは…」


それは、恋の歌だった。
(向日葵しかしらない、向日葵のための、たった一曲しかない唄。)


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