天国からの歌声 | ナノ

「なぁ、うそだろ。」

そう、つぶやいたのは誰やったんやろ?


その日は何故かどこの部も部活がなくなったんや。俺達は誰もその理由を知らへんかった。それは、部長である跡部でさえも。

「なぁ、跡部。ホンマに理由知らへんの?」

「俺は何も知らねぇ。ただ、今朝監督から電話が来て、“今日の部活は無しだ”って言われただけだ。理由を聞く前に、向こうが切っちまった。」

でも何となくやな予感がしてたんや。今まで、理由もなく監督が部活無しやなんて、言ったことあらへんかったから。

「なぁなぁ、放課後はあるよな?俺、早く跳びたいし。」

「岳人、教室ん中で跳ぶんやない。」

「フン。俺は知らねぇよ。自分で監督の所にでも聞きに行け。」

「跡部もそないな言い方せんでもええやん。」

「「忍足(侑士)はだまってろ。」」

「すんまそん。」

何で俺があやまってんねん。ホンマ意味分からへんわ。

「おい向日、HRはじまっぞ。早く教室もどれ。」

「お、マジだ。じゃーな、侑士、跡部。」

「おぉ、昼休みな。」

俺達テニス部のレギュラーは、大体部室か屋上で弁当を食べるんや。まぁ、弁当ゆうても購買のパンの方が多いんやけど。後は、テニス部の俺達の他に一人。小松向日葵。俺等の…っとゆうか、日吉の幼馴染みや。最近は何や、学校来とらへんみたいやけど。

「HR始めっぞ〜。」

いつも通り担任が入ってきて、みんながいっせいに席に着く。そして、いつも通りのHRが始まる…はずやった。

「え〜まず、一つ悲しいお知らせがある。今日の朝部活がなかった理由でもある。知っている奴は知っているだろうが、病気で入院していた2年の小松向日葵が先ほど……、亡くなった。」

耳を疑った。何かの間違いやろ?

「おい、どういうことだ!」

跡部が声を荒げて担任に向かっていくのを見た気がした。俺はとりあえず廊下に出た。するとそこには、同じ話を聞いたんやろ。レギュラー達がそれぞれ教室から飛び出てきた所やった。

「おい、忍足!!向日葵が死んだってどういうことだ!!」

宍戸が俺の所へ来て聞く。

「そんなん、俺が聞きたいわ!それより鳳の所へ行った方が何か分かるんちゃうんか?」

「そうだな。」

そう言って走り出した俺達を見た、岳人や跡部、ジローが後ろから追いかけてきた。

「「鳳(長太郎)!!」」

俺と宍戸の声が鳳を呼んだ。鳳も、オレ達と同じように廊下におった。

「長太郎。お前、向日葵が死んだってどういうことだ?何か知らないのか?」

「宍戸さん!俺だって知りませんでしたよ。向日葵とはクラスも違いますし…。」

鳳もダメかいな…。

「…知ってますよ。先輩達。」

そこには日吉がおった。

「そうだ。若は向日葵と同じクラスだよな。何があったんだ?」

「向日葵は…、何かの病気で中央病院に入院していたそうです。でも、俺もそこまでしか…。」

くっそ。何で、何で、気付かへんかったんやろ。もっと早く気付いていれば。

「おい、忍足。そんな所につったってねえでいくぞっ!」

「あぁ、せやな。」

俺達は走り出した。向日葵のおる病院に向かって。


「小松向日葵はどこや!!」

ナースステーションで大声で言う。

「108号室ですが…。」

「いくぞ!!」

「病院内は、走らないでください!!」

後ろから、看護師の怒った声が聞こえた気がした。でも、今はそんなこと気にしている場合やない。

“ガラー、ドンッ!”

跡部が思いっきりドアを開けた。そこで、俺達が見たものは……。

「向日葵、ひまわり………。」

向日葵の名前を呼び続ける、向日葵のおかん。
その隣りで慰めながらも泣き続ける向日葵のおとん。
声がもう出なくなって泣くことしか出来ない向日葵の兄ちゃんと妹。
そして…。白い布を顔にかけられて、ただ眠っているだけのような向日葵の姿やった。
そっと、顔にかかった白い布を取る。真っ白い顔をして、ただ眠っているような向日葵やった。
眠っている、だけやった。
俺達のかけがえのない存在は二度と覚めることのない深い、深い、ただの眠りに。

ただ、誰もが願っていた。
(向日葵は…、死んでなんかいない。)


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