クリスマスのその後
※こちらの続き
温まった室内。肩にタオルを掛けてほかほかと頬を火照らせながらソファに座るアーサーの、手元をあまり見ないようにと気を配りつつ視線を向ける。
それでもやっぱり否応なく視界に映るのは、崩れたケーキにフォークを突き刺して食べるアーサーで。
気に入ったのか、再び頭に白いぼんぼり付きの、真っ赤なサンタ帽子を被っている。
それなりにいい値段のしたブッシュ・ド・ノエルは、落下の衝撃とアーサーの食べっぷりとで既に原型を留めていない。崩れた内側から覗く茶色いチョコレート味と思われる生クリームに、俺は盛大に眉を寄せた。
暫くケーキは見たくない。勿論クリームもだ。
「アルも一口喰うか?」
「いや、俺は……」
あれから生クリームに塗れたアーサーを浴室まで抱えて丸洗いして自分もシャワーを浴びて、精魂疲れ果てた俺に向けられるフォーク。
ん、と唇にくっ付くほど差し出された一口分のチョコレートケーキを、拒む事すら億劫で仕方なしに口を開いて受け入れる。
「美味いか?」
「うん……まあね……」
もぐ、もぐ、と牛のようにゆっくり咀嚼する俺の言葉を聞いて、何故だか得意気に笑み零すアーサーに悪びれた様子は無い。けれど仕方ない、これが俺の知る、アーサーという自称苺の妖精なのだから。
「……アーサー、口にクリーム付いてる」
「どこだ?」
「そっちじゃない、右……もっと下、……あっ、もうちょっと上、ああもう」
並んで座ったソファからアーサーの方へと半身を捻り、親指でぐいぐいと口元を拭う。
ティッシュを探したのは一瞬で、俺は直ぐにもう何もかもどうでもいい心境が勝って元いた位置へと腰を据えた。背凭れに深く身体を預け、暫くは見たくも無かったクリームを舌で舐め取る。
舌の上を転がる細かいクラッシュアーモンドと、濃厚なカカオの風味、そしてこれは……。
「……あれ、これもしかしてブランデー使ってる? アーサーってお酒大丈夫だっけ? ……アーサー?」
見ればもう欠片しか残っていない皿の上の残骸と、頭を垂れて表情が窺えないアーサー。
その肩を掴んで軽く揺さ振る。
「アーサー? アーサァー? アー……」
嗚呼、俺ってアーサーの目……綺麗なエメラルドグリーンの瞳を、結構気に入ってたんだな……。
ぬらりと顔を上げて白目を剥いた彼は別人のようで、俺は後悔する暇もなくただただこれが聖夜が悪戯に齎した悪い夢であればと願った。
俺はこの夜、今まで俺の知らなかったアーサーという苺の妖精の新たなる一面を知る事となる。
そして後日、今度はフランシスが、今まで俺自身でさえ知らなかった程に殺意に満ちた俺の顔を、正義が時として暴徒と化す新たな一面を知ったのは、また別の話だ。