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※英さんが風邪引いたドラマCDネタで捏造。
『イギリス♪』
ふわふわと熱に浮かされた定まらない感覚の中で、イギリスは懐かしい声を聴いた。
目に映る風景の中、草原の中を駆け回る天使のような子供にだけ色が付いている。
風に揺れる柔らかな金糸、晴れた空の色を思わせる瞳が此方を見ては、子供らしいふっくらとした唇が笑みを象る。
──ああ……夢、か。
幸せな夢だった。アメリカが独立前、まだ可愛かったあの頃の。
目の前の幼いアメリカに、作らなくとも自然と綻ぶ笑顔を向けながら思考を巡らす。
そうだ、確か俺は日本の家で風邪を引いて──。
次に気が付いた時はムカつくワイン野郎が俺を嘲笑いに来ていて。
そうこうしてる内に、独立してからと云うもの可愛げが無くなったメタボ野郎も混ざって騒ぎ始めて──。
──記憶は其処で途絶えた。
風邪は結構辛い。
頭は痛いし、咳は出る。起き上がれねえし、今回は日本の家だったから──日本には申し訳無いが助かった。一人だったら危なかったかも知れない。
そんな瀕死の状態で見る夢が、寝込んでる俺の額にハンバーガーなんかを乗っけやがった、アメリカなんかの夢とは。
更にはその夢に幸福を感じる自分がいるだなんて、信じたくない。信じたくなんかないんだが──。
『また君の作ったスコーンが食べたいんだぞ』
段々と腹立たしくなって来た思考を打ち消すように、もう俺の記憶にしか居ない可愛い可愛いアメリカが両手を広げながら嬉しい事を言っている。
──今のアメリカはムカつくが、幼いアメリカに罪はない。
俺は、目の前に居る幼いアメリカへと手を伸ばした。
◇◇◇
「──だから、早く元気になるんだぞ」
「……何をなさっているんですか? アメリカさん」
イギリスの様子を見るべく、起こさないようにと忍び足で客間へ足を運んだ日本の前には、ちょっと異様な光景が広がっていた。
* * *
横たわるイギリスさん。よし。
其の傍らに陣取るアメリカさん。……意外ですが問題有りません。
大きな背を丸めてイギリスさんの耳元で先程から何やら囁き続けるアメリカさん。──これを見ては、質問の一つぐらい投げ掛けて仕舞うと云うものです。
「!? うわぁぁあにほーーんモガモガ」
「っ静かにして下さい、イギリスさんが起きてしまいますよ」
* * *
突然の闖入者に大仰に肩を跳ねさせて名を叫ぶ口を、慌てて押さえて声を潜める。
こくこくと頷く様子を確認してから手を離すと、さり気なく掌を着物の裾で拭ってから向き直る。
視線を合わせず只「あー」やら「うー」だの言いながら百面相をしているアメリカがまともな言葉を発するよりも前に、毛布の塊が動いた。
アメリカと日本が気付いて其方に目を向ける。
「……アメリカ……」
熱ではあはあと呼気を荒げ、掠れた声と共に伸ばされた指先は、何かを掴もうと幾度も宙を掻く。
日本の存在を気に掛けチラチラと窺い見ていたアメリカは、しかし意を決した様にイギリスの元へと再び向き直ると、宙を彷徨う手を掴んで自分の手ごと毛布の中に突っ込んだ。
月明かりに照らされ耳まで赤くしながら必死に日本へ後頭部を向けて視線を床に落とすアメリカと、ふにゃふにゃと口元を緩めて幸せそうに笑むイギリスの寝顔とを見比べ、日本は「ふふ、」と小さく笑みを零した。
「まさかお二人がそんな関係でしたとは。……アメリカさんまで風邪を引かれては大変です、何か掛けるものをお持ちしますね」
言いながら踵を返す日本に、背後からアメリカの慌てふためく声が投げ掛けられる。
「にほーん! 何か誤解してるんだぞ!」「朝までいる訳ないじゃないか!」「今夜の事、イギリスには言わないでくれよ!」
其の声は、既に廊下を歩む日本の耳にも届いた。
(だから大声を出さないで下さいと申し上げましたのに…。そのような台詞は、イギリスさんの手を離して私を追って来れたら言って下さいね)
ゆるりと笑みを深めた日本の歩みは、来た時よりも軽やかに夜の帳を戻って行った。
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