逃避行
「ねぇ、イギリスは何をお願いした?」
アメリカは夜空を流れる星々を指差しながら、自らの肩に凭れる金糸の頭を見下ろした。
あちこちがピンと跳ねた金糸はもそもそと動いてアメリカに翠の視線を合わせる。
「……別に。お前がいればそれでいいし」
「珍しく素直じゃないか」
静かな夜にくすくすと小さな笑みが広がる。対するイギリスは、フンと鼻を鳴らして再び視線を漏らした。
代わりに、繋いだ手にぎゅ、と力を込める。
「……どうすんだよ、これから」
「もっと遠くに行こう!二人きりになれる所がいいな」
まだ見ぬ遠くを目を細めて見詰めながら、アメリカは声を弾ませる。
「着いたらまず、二人で家を造ろう!朝は思い切り寝坊して、昼間はずっとダラダラして……ああ!食べ物は何とかしないといけないね!それで夜はセッ……」
べしッと頭を叩かれた所でアメリカの言葉が中断する。
イギリスは痛む手を軽く振って二人で包まる毛布の中へ戻した。この石頭、と呟いた後に呆れたように小さく笑う。
「んなとこ、あんのかよ」
「きっとあるさ!探そう、二人で」
アメリカは自分より低い位置にあるイギリスの頭を見下ろす。
返事の代わりに、星明かりに照らされた金糸がそっと寄り添った。
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流星群小話。
国である事を放棄し、一切のしがらみを捨てて二人で逃避行するお話でした。
二人とも本当はそんなの無理だって分かっていて、いつか終わってしまうまでの短い間の旅と知りつつ。
そう遠くない内に終わる。
嗚呼それでも。
少しでも長く、続いてくれ。
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