君がいる明日 - main
仏英未満


※米←英(←)仏日 前提
※学園パラレル
※仏英バイオレンスラブストーリー
※英が凶暴
※カオス

◆登場人物◆
仏、英のみ/仏視点


以上の設定でも宜しければ、小ネタ程度ですが、どうぞ!





「お前、可愛い顔してるよな」

 目が合ったら、あつ〜い眼差しで見詰める。
 それが知り合いだったら取り敢えず口説く。
 更に相手が好みのタイプだったら手を出す。

 これって常識なんじゃないの?
 なんて思って止まなかった俺の元・常識は、崩壊した。

「…………テメェ……」

 こいつと出逢った事で。

 肩に回した手をバシッと叩き落とされたかと思うと、次の瞬間マドモアゼルなんか真っ青になって竦み上がるんじゃないかってぐらい物凄い形相で睨まれた。
 元からキツい眦は吊り上がり、引き吊る口角が犬歯を剥き出しにしてひどく凶悪な形相を醸し出している。

 あれ?こいつって、アーサーだよな?

 俺の脳裏に、菊から「私の友人です」と紹介された時のアーサーの頬を染めて恥ずかしがる様子が蘇る。

 可笑しいな、こんな筈じゃなかったのに。

「……テメェ、菊の恋人の──確かフランシス、だったよな。どう云うつもりだ」
「いや、可愛いなーっと思って……」

 俺は両手を挙げて降参のポーズを取りながら答える。
 間延びした返事になったけど、別に悪気がある訳じゃない。
 だと言うのに、アーサーがゆらりと揺れて腕を組んだ。その様子は、背後から何かこの世の者ではないおどろおどろしい何かでも這い出して来そうな雰囲気だった。
 アーサーは俺を顎でしゃくる。

「──ふざけた真似しやがって……そこになおれ」

 気圧されて、ここ美術室のあまり綺麗ではない床に、菊がよくやる正座をして座った。


 ── 元ヤン説教タイム ──

・お前、菊と「浮気はしない」って最初に約束したんだろ…この犯罪者が!
・ああ?「犯罪者」ってのは罪を犯す者って書くんだぞ。テメェは立派な犯罪者だ!
・他の奴にも同じような事してんじゃねぇだろうな……まあ、テメェが何言った所で信じてやる気なんざサラサラねえけどよ!
・筋はキッチリ通せ!手ぇ出すならちゃんと別れてやれ!
・言っとくが万が一菊と別れて俺の所に来てみやがれ、この世に生を受けた事を後悔するくらいギッタギタにしてやる…
・お前だって、裏切られたり嘘吐かれたら傷付くだろ?……まさか無ぇなんて云う気じゃあ…
・もし無いなんて言ったら、俺がお前の心臓抉ってやる所だったぜ。ハハハハハ…

..etc

 ── 説教タイム終了 ──


「おい、…立て」

 先程から「ヒィ」か「ヒィイ」か首振り運動くらいしか反応出来ていない俺は、指示に従ってブルブルと立ち上がる。怖すぎだろ、こいつ。
 アーサーが机の上の、恐らくデッサンにでも使った果物籠の中から林檎を一つ取り出した。
 俺の手首をむんずと掴んで掌を上向かせると、その上に林檎を乗せる。
 そして少し、距離を置いた。

「…歯ァ喰い縛りな」

 その瞬間、くるりと身を翻したアーサーの制服の裾が捲れるのを最後に、俺の視界は目の前のものを認識できなくなった。
 ヒュン、と斬空音と共に鼻の頭を掠めたアーサーの靴先が、俺の掌に乗せられた林檎を粉砕する。
 林檎じゃなくて豆腐だったんじゃないかってぐらい見事に砕けた。
 けど鼻腔を掠める香りも、床に散らばった残骸も、林檎以外の何物でもない。
 アーサーが無表情で床を一瞥してから酷く歪んだ笑みで俺を見た。
 親指でクイと壁を指差して、付着している飛び散った欠片を示す。

「──あれがお前だ。……死んだな」

 ニヤリ、いっそ賛辞でも送ってやりたいくらい見事な凶悪面を作ったアーサーが、林檎だった残骸を指しながらクツクツと喉を震わせた。
 俺は背中を駆け抜ける悪寒に身震いする。
 そんな俺に満足したのか、アーサーはフンと鼻を鳴らして表情を元の、少し不機嫌そうに見える顔に戻した。

「……一応、お前みたいな最低野郎でも菊の男だからな。マジに手ぇ出すのは勘弁してやる。でも──」

 今度は視覚に捉えられるくらいの速度で、左手の掌が飛んできた。
 ぺち、と音を立てて俺の右頬が打たれる。
 条件反射でのろのろと腕が上がって、じんわりと広がる微かな痛みを掌で押さえる。

「これは、菊と今までお前に傷付けられて来た奴等の分だ。菊は優しい奴だからな……今までの奴等の代わりに俺が言ってやる、」

 襟首を掴まれてグイと引き寄せられた。
 近付く唇に、もう少しでキスが出来そうだなんて思った俺は相当イカレてる。

「テメェに傷付けられた気持ちは死んでも忘れねぇかんな……地獄からでも呪ってやるぜ」

 言い終わると同時にパッと手が離されて。
 ああ、カッコ悪い。いつから開いていたのか間抜けにぽっかり開いた唇を、俺は今更引き締めた。

「これに懲りたら、二度とこんな事すんなよな。んで、誠実かつ紳士的に生きろ。……分かったか?」

 気付けばアーサーとの距離は少し開いていて、代わりにぐっと拳を突き出されている。

「男と男の約束だ」

「……分かった、守るよ」

 俺は引き寄せられるようにその拳に自分の拳をコツンと合わせ、唇は俺本体に相談しないで勝手に言葉を告げていた。

 アーサーは「よし」と大仰に頷くと、初めて俺に向けてニッと笑みと呼べる表情を浮かべる。

「菊が惚れた男だからな、今は信じてやる。あっ、けど! テメェが俺にした事はまた話が別だ! 俺がテメェの前で見せる笑顔は全部作り笑いだと思え! それと、用が無い時は話し掛けてくんじゃねーぞ!!」

 いつも仏頂面のお前の笑顔なんて、そもそも見る機会もないでしょ。
 さっきのあれが、最初で最後と言われても、何ら不思議はないくらいだ。
 菊に紹介される前、いつ見掛けても一人で、笑顔なんて見た事なかった時のアーサーを思い出す。俺はこいつの事を、何も知っちゃいなかったんだ。
 アーサーが俺に背を向けて歩き出す。

「そこちゃんと片付けてけよ、……じゃあな」

 林檎の残骸の後片付けをちゃっかり俺に押し付け、アーサーは肩越しに軽く振り返りヒラヒラと片手を振って寄越す。
 その細められた翠の双眸に、挑発されているような艶を勝手に感じるだなんて、本当に終わってる。

「ちょっと……これ、マズいでしょ……」

 今まで俺は何を見て来たのか。
 何を感じて恋だと、愛だと思って来たのか。

「……嘘だろ……」

 多分、これは、初恋だ。



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今後の流れを箇条書き⇒

・菊の事は変わらず大切だけど、アーサーに惹かれる気持ちを止められない兄ちゃん
・けど菊と別れて告白なんかした日には今の距離さえ失ってしまうので身動きが取れない兄ちゃん
・初めての気持ちばかりで全然いつもみたいにキメられなくて戸惑う兄ちゃん
・他人の恋路にはこんなお節介なクセに、自分の恋(米←英)にはてんで不器用で空回っては涙するアーサーを放っておけない兄ちゃん
・今のままで充分だ、相談役と慰め役に徹する兄ちゃん

・そんな兄ちゃんに次第にアーサーは…

以上!




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