警官パロ@
※英が警官
※米が情けない
※英視点
『help me!! help!! help!!』
突然の助けを求める電話が掛かって来たのは、そろそろ日付を跨ぐかという時間だった。
「おい! どうした!?」
意味不明な男の絶叫に混じって、少し遠い声で女の悲鳴も聴こえる。
「おいっ……大丈夫か!? しっかりしろ!」
グサリ ドチャ
そんな薄気味悪い音と共に、男の叫び声が鼓膜が破れるんじゃないかと思うくらいに響く。
何か事件に巻き込まれているのかも知れない、そう思うと居てもたってもいられなくなった俺は、泣き叫ぶ男から何とか聞き出した住所のメモを片手に派出所を飛び出した。
「アーサー? どうしたのぉー?」
「事件だ! 俺は出て来る……後は任せたぞ!」
「分かったー」
俺の隣で絵を描いていた顔を上げるフェリシアーノに言い於く。
こいつ一人では心配だが、もうすぐ仮眠室からルートヴィッヒが起きてくる時間だから大丈夫だろう。
* * *
メモした場所まで辿り着くと、電話と同じ男の悲鳴が聴こえた。
「っ……おい! 大丈夫か!?」
鍵が掛かっていた扉を体当たりでぶち破る。
「NOoooo!!!!」
「……っ!」
室内に入って直ぐに飛び掛かって来た大柄な男に、思わず腰の警棒へと手を伸ばすが寸での所で思い留まった。
今俺を滅茶苦茶に抱き潰しているこの男と、さっき電話を掛けて来た男の声が同じだったからだ。
情け無い悲鳴も全く同じ。
「おい!? 一体どうした……!」
俺は男の背中の服を掴んで引き離そうともがいた。
そんな抵抗はものともせずにグイグイと俺の身体を玄関の固く冷たい扉に押し付ける男の肩越しに、部屋の様子を窺い見る。
確かもう一人、女性もいた筈だ。
「ええい情けねェ!」
背中を丸めて縋り付く身体を突き飛ばして奥へと走る。
警官ナメんな。
その時、奥の部屋から大袈裟なまでに甲高い女の悲鳴が聴こえた。
「おい! 大丈夫…か……」
女性はいた。金髪碧眼の巨乳美人だ。
そして電話口で聴いた「グサリ ドチャ」の正体も判明した。
醜悪なエイリアンが、美女をムシャムシャと貪る音だ。
ただし、全てはテレビの中の出来事だが。
背後からバタバタと足音が響く。
そのまま後ろから俺をぎゅうと抱き締める男を、首だけ回して振り返る。
「……おい、もう一度訊くが…、何があった?」
「うう、一人でホラービデオを観てたらすっごく怖くて……」
ぶるぶる。
震えているのは男の身体……もそうだがンな事はどうでも良い。
俺の怒りの鉄拳だばか!
「ゼー…ゼー……だぁあっクソッ! 勝手にしやがれ!」
殴っても蹴っても、今度は男の手が離れる事は無かった。
そうして男はそのまま俺の身体を抱えてソファに座るとホラービデオの続きを見出す。
俺は抵抗を止めて男の腕の中でぐったりと四肢を投げ出した。
疲れた。本当に。
先日、ルートヴィッヒがGキブリが出たとかで電話を掛けて来た若い男女のカップルの家に渋々退治しに行っていた時は、災難だったなと他人事のように思ったものだが。
今は代わって欲しくて堪らない。
「……、………。…おい、終わったようだが」
「一人じゃ眠れないよ……」
「あー……寝るまで付いててやるから」
男が激しく首を振って腕の力を強める。
……つまりなんだ?一緒に寝ろって事か?
「──はぁ………おい、まずは手、離せ」
「いっ、嫌なんだぞ!」
「帰らねぇよ、ったく。……制服ぐらい脱がせろ」
俺の言葉を聴いてそろそろと腕を解いた男の膝から降りて上着を脱ぐ。
ズボンも脱いでしまえば、俺の格好は署から支給されてるシャツと同じく支給品の短パンだ。
「お前、名前は?」
「アルフレッド……」
「そうか。おらアルフレッド、行くぞ」
手を引いて促すと、水色の双眸が俺を見上げてのそりと立ち上がる。
「寝室どこだよ」
「そっち……」
そのまま大人しく着いて来る様子は、まるで大型犬のようだった。
(やべ、ちょっと可愛いかも)
わざわざGを退治する為だけに行って、その死骸を持ち帰って来たルートヴィッヒが言っていた。
『どんな理由であろうと、助けを求めて来た市民を放って於く訳にはいかない』
ならばこれが俺の仕事でも問題無いだろう。
「おら、俺がエイリアンから護ってやるから安心して寝ろ」
男二人では狭いベッドに並んで入ってブランケットを肩まで掛けてやる。
怖いクセに不服そうな表情をするのが可笑しくて、少し笑ったら睨まれた。
「……君の名前は?」
「アーサーだ」
「…そう。…おやすみ、アーサー」
「ああ。おやすみアルフレッド、良い夢を」
細かい事は、明日考えよう。
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◆あとがき◆
ルートヴィッヒさんの体験エピソードは、なんと事実です。
以前ネットニュースで見ました。
ならばこんな事があっても良いだろう!と…(笑)
今後の展開はきっと、この出逢いの所為で米がワンコにしか見えない英に、米が頑張ってアピールするに違いない。