君がいる明日 - main
警官パロA


※警官パロの続き




 俺は今、自分よりデカい金毛の犬を小脇に抱えている。
 そして反対の手に持つ警棒を勢い良く振り翳した。

「俺の警棒が火を噴くぜ。ほあたぁぁぁあ!!」

 するとマジで警棒の先から燃え盛る炎が噴き出して、目の前のエイリアンどもを薙ぎ払った。
 俺の警棒パネェ。

 ってンな訳あるかっつーの。

 こりゃ夢だな夢。
 起きろ俺。ほら早く。起きろっての。

 起ーきーろー!




 ぐわっ!
 音がするくらい思い切り目を見開いた先に、見慣れぬ天井が映る。

「……重い……」

 と同時に身体に纏まり付くような重みを感じて、俺は自分が可笑しな夢を見てしまった原因を思い出した。

 俺の身体を抱き枕よろしく両腕でがっしりと抱き締めて、嫌ではないのか同じ男の胸に顔を埋めてすよすよと寝息を立てるこの男。
 窓から差し込む明るい光のもとで見ると、なかなか整った顔立ちをしていた。
 ただし、その目許の腫れぼったい赤さと其の理由を知っている俺から見れば、ガキでワンコな大型犬でしかないのだが。

「……ぷっ、」

 今思えば、ホラービデオを観て泣き叫ぶ大の男に懐かれると云うのは、稀にみる貴重かつ愉しい経験だったかも知れない。
 俺は男の腕の中で身じろいで、その赤い目許を指で拭ってやった。

 脚までガッチリ絡まっている中を何とか抜け出して寝室を後にする。
 そうして俺は目の前の現状に固まった。

 まず玄関だが、僅かだが扉が歪んで隙間風が入って来ている。
 そういや俺が壊したんだっけな。

 揉み合った際に落ちたのだろう帽子を拾って居間に行くと、再びの絶句。

 何処からが元からで何処からが昨日の騒ぎの所為かは定かで無いが、辺りには物が散乱していてまるで玩具箱の中身をひっくり返したような惨状だった。
 しかし、玩具箱の中にはポップコーンは散らかっていないだろう。
 時折ルートヴィッヒと抜き打ちチェックに行くフェリシアーノの部屋より酷い。

「……ちっ!」

 幸か不幸か、今日の俺は非番だった。



  * * *



「……よぉ、起きたか?」

 入り口からそわそわと此方を窺っているアルフレッドに声を掛ける。
 その首がおずおずと頷いたのを見て、俺は少しばかり苦手な笑顔ってやつを何とか浮かべた。
 朝起きて見知らぬ男が家に居たら誰だって驚いて警戒するだろうが、自分で呼び出しておいて知らないなんて言わせる気はない。

「んじゃ顔洗って来いよ。飯出来てっから」
「………」
「…ん? どうした? 俺の顔に何か付いてるか?」
「なっ何でもないんだぞ!」

 バタバタと駆けて行く後ろ姿に、俺が勝手に妄想の中で付けて遊んでいる犬耳と尻尾が、心無しか元気良く振られているような気がした。




「……不味い」
「ん、だ、と?」

 ミシシ。
 俺の拳が怒りの産声を上げるが、何とか押さえ込む。
 云わばこいつは他人の家の犬だ。躾がなっていなくても、俺が口を出す事ではない。

「ったく……、つかこの家、紅茶はねぇのか?」
「珈琲しかないんだぞ」
「そのようだな……。せっかく俺が美味い紅茶を淹れてやろうと思ったのによ」
「紅茶を淹れるのに上手い下手なんてあるのかい?」
「あ? てめ、紅茶バカにすんなよ」

 ついでに俺の料理もバカにすんな。

 俺は辺りをキョロキョロと見回す。
 電話の横にあった紙とペンを勝手に拝借した。
 自分の名前と、プライベート用の携帯電話の番号とメールアドレスを記す。

「扉の修理代、後で請求しろ。金額と口座番号送ってくれりゃ直ぐに振り込む。あ、一応請求書の写メ添付しろよ?……んじゃ、俺は行くからな」

 渡したメモを見て嬉しそうにしていたアルフレッドが俺を見る。
 そりゃ余計な出費で懐が寂しくならないのは嬉しいだろうが、相手はこの俺、警察官なんだから無用な心配はするなと言ってやりたい。

「え……? もう行くのかい? 一緒に食べようよ」

 アルフレッドの声が少し寂しそうだ。
 ん?なんでだ?
 嗚呼、俺の気の所為か。

「ばぁか、俺は市民の安全を護る警官だっての。飯は仕事の内に入ってねぇよ」

 誰だ添い寝も掃除も仕事に入って無いとか言った奴は後でちょっとツラ貸せ。


 しっかりと扉が閉まらなくなってしまったアルフレッドの家を後にする。

(取り敢えず派出所に置きっぱなしの荷物を取りに行って……)





 その日の夜、俺はまた同じ夢を見た。
 しかし最初から夢と気付いている俺の警棒は、今回は火を噴いてくれない。

「冗談じゃねぇぞ、いくら夢だからってエイリアンに喰われてたまるか……! あっ、アル!」

 俺が抱えていた犬が突然暴れ出してそのまま俺の腕を離れ、エイリアンの前に立ちはだかった。
 どこからどう見ても金毛の大型犬にあいつの名前を呼ぶ俺も相当酷い男だが、そんな事は今は構っていられない。
 しかしアルフレッド(犬)は徐に後ろ足で立ち上がると、その姿がうようよと変形して行き、何故か全身青タイツで赤いマントを羽織ったアルフレッド(人間)になってしまった。
 アルフレッド(人間)が俺を振り返る。

「ヒーローが来たからもう安心なんだぞ! 君は俺の後ろに隠れていてくれよ!」

 爽やか過ぎて眩しい笑みに、ぽんっ、と音を立てて俺の顔が茹だった。




「いやいやいやいやいやいや…」

 目が醒めたのは、目覚ましが鳴る5分前。


 俺はまだ、派出所の前でアルフレッドが待っている事を知らない。



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『アーサー!君のメモ、間違ってたんだぞ!』
(とは口実で、しっかり携帯に登録&メモはしまってある)




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