受話器越しエイプリルフール
『好きだよ』
……えっ……。
電話の向こうから聴こえて来た言葉に、俺は耳を疑った。
俺はイギリス、国だ。
電話の相手はアメリカ。同じく国で元……弟、だ。とかこの辺の複雑な事情は今は関係無い。
兎に角、俺は今アメリカと電話をしていて、唐突に好きだと言われた。
そして今日は、エイプリルフールだ。
「あー……えーっと……」
エイプリルフールにかこつけているつもりなら、この台詞は嘘、つまり逆である「嫌い」という意味になる。
けれど不意の告白と、このやけに熱っぽい沈黙が俺に僅かな期待をさせる。
だって俺はこいつの事が…
「好き……」
───だから……。
って……。
「──好き……ッて……な、何がだ? 何が好きなんだ?」
うっかり口をついて出た言葉に慌てて注釈を加える。
あ ぶ な か っ た。
誤魔化せたよな?誤魔化せた筈だ。
誤魔化せたに決まってる。
そうでなくては困る。
『………』
俺の心拍数が今も尚この胸のあるのか無いのか分からない寿命をすり減らしているというのに、アメリカは依然として無言のままで。
いい加減、口から出そうになっていた心臓が、何か不味い事でも言ったのかと不安で冷たくなってくる。
「おい、アメリ……」
耐えかねて名前を呼んだ時だった。
ガチャ
ツー ツー ツー
通話が切られた。
◇◇◇
(あんのクソ眉毛〜〜!!)
ベッドの上をごろごろと思う様に転がってからムクリと起き上がる。
今日はエイプリルフール。
年に一度だけ、堂々と嘘だと誤魔化せる日に告白した。
巫山戯るなと言われたら、冗談だと笑い飛ばせばいい。
けれど、もしも色好い反応が返って来たら……。
そう思っていたのに。
(何が言うに事欠いて『好き…』だい!)
思わず電話を切ってしまった。
こんな筈ではなかった。
「………」
室内にある時計を見上げる。
此処で引き下がって堪るもんか。
「好きだよ」
『……』
時計を確認する。
英国のエイプリルフールは、つい今し方終わった筈の時刻。
二度目の「好き」。
受話器の向こうは、無言だ。
(なんとか言ってくれよ……)
嫌なら馬鹿にして、笑い飛ばせばいい。
そうしたら言ってやるんだ、こっちはまだエイプリルフールだと。
でも、もし、そうじゃないなら……。
『……エイプリルフールは、もう終わってるぞ』
さっきから握り締め過ぎて熱を持った通信機器を通して鼓膜を震わす声は、やけに躊躇いがちに小さく紡がれた。
これは……一体、どっちだ。
YES?NO?
「…………知ってる、よ」
『……』
再びの無言。
いざとなったら冗談にして誤魔化してしまえると、そう思ったからこそ言えた言葉。
大きく構えていた気持ちが徐々に萎んで、代わりに心臓がバクバクと音を立て始める。
受話器の向こうから息を呑む気配がした。
『お……お前が、どんな返事を期待してるのか知らねーが……』
硬い声。
次にどんな言葉が飛び出すのか、エイプリルフールなんて忘れるくらいの緊張が俺を襲う。
『……お前が、今直ぐ俺んちに来て同じ言葉をもっかい言えたら答えてやるよ』
「えっ」
ガチャ
ツー ツー ツー
通話は其処で切られた。
◇◇◇
(あんの自称ヒーローがぁぁあ!)
ズルい、ずるい、狡いだろ。
流石に1日に二度も言われたら、どんな馬鹿だって期待する。
だから、そっちが其の気ならこっちだって──。
──……エイプリルフールの翌日、嘘で誤魔化し切れない本音がイギリス宅の庭に響き渡るまで、あと数時間。
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↓後書き&妄想話
エイプリルフールと言えば「嫌い」と告げるネタがお約束なので、反対の「好き」を使ってみました。
その後の展開予想
@「あれ?これって俺も面と向かってアメリカに答えなきゃいけないんじゃね?」と気付いた紳士が焦って隣国の腐れ縁にTELして「好きだ!」って言う練習をしてる場面にヒーローが到着、そして誤解、修羅場、兄ちゃん巻き添え
Aヘリコプターの騒音に気付いて庭に出ると縄ハシゴに捕まって目の前に降りて来たヒーローが真っ赤な顔で「好きだよ!」と絶叫
Bその他
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