君がいる明日 - main
4日目


昨日の一件に追加して寝不足、おまけに今朝起こった出来事の所為で俺は最高に苛々していた。
眠れないまま夜を明かし、普段は遅刻ギリギリで登校する所を珍しく早い時間に家を出た、今朝の出来事。

俺は菊に文句を云いたい。
『早起きは三文の得ですよ』なんて嘘っぱちじゃないか!ってね!


今朝、俺が学園に向かってまだ人もまばらな通学路を歩いていると、校門が見えてきた所でこの数日で嫌でも聞き慣れてしまった声が聞こえて来た。
今迄は彼等の後ろを歩くばかりだったけど、前を歩くのも…否、声を聞くのも嫌だと俺は歩調を早める。
漸く声が聞こえ無くなった所で振り返ると、その日のメンバーはいつもと少し違っていて。

(アーサーと、フランシスと……女の子?)

先に俺の視線に気付いたのは、他校の制服に身を包んだアーサーよりも小柄な金髪の女生徒で。
思い切り目が合って途惑っていると、続いてフランシスも此方に気付いて視線を寄越す。
アーサーだけが少し離れた位置を俯き加減に歩いていた。
俺は気まずさから視線を逸らし、早く自分の教室へ行こうと思い前へ向き直ろうとする。
しかし…俺が視線を外す刹那、その女生徒はアーサーの服の裾をくい、と引いたかと思うと爪先立って頬へと口吻けた。
直ぐに離れて手を振りながら去って行く女生徒を、フランシスが手を振り返しながら見送っている。
アーサーはと云えば、遠くてはっきりとは分からないが黙って背中を見送っているようで。
気が付けば、俺は彼等を視界から追い出して足早に校舎へ向かっていた。



以上が今朝の出来事だ。

「不純異性交遊じゃないか!」

俺がシェイクを叩き付けるように机に置くと、正面に座る菊がオロオロと辺りを見渡してから溜め息を漏らした。
何か言いたげな目をして居るが、何も訊いてこないから俺だって何も答えない。

あれだけを聞けば、教師以外の誰もが口を揃えて「別に良いじゃないか」と云いそうなものだが、俺が矛先を向ける相手は一般生徒ではない。生徒会長だ。
他の生徒の手本とならなければいけないのだから、彼は不純異性交遊もみだりな外泊もすべきではないのだ。
何故俺がこんな事を気にして、シェイクもハンバーガー味が分からなくなるほど気分を害さなくてはいけないのか。これも全てあの生徒会長の所為である。

収まらない苛々をぶつけるように、俺はただ勢いに任せて事の顛末を説明した。
男に好きだと云われた事。その男が他の男といかがわしい行為に及んだに違いない事。更には他校の女生徒にまで手を出している事。放って置きたいのにヒーローとして黙って見過ごせない事。

けれど、いつもは聡明な友人も、この時ばかりは少し頭がおかしかったに違いない。

「その方の事を好きなのでは?」

一通り話を聞き終えた菊が、俺の苛々の原因をあっさりとそんな一言で締め括った。
そんな筈無いじゃないか。
俺の顔が苦虫を噛み潰したみたいに歪んだ。

「……。話は変わりますが、生徒会で面白い話を聞いたんです」

「へえ…、そう云えば菊は生徒会メンバーだったね」

話の意図が見えない。けれど其の先に興味が湧かない訳では無かったから適当に促す。

「先日、生徒会長が副会長の家に泊まったそうなのですが…」

何を話すのかと思えば。
ひく、と俺の口端が引き吊る。
何だかここ数日で俺の顔は相当に凶悪な人相で固まってしまったんじゃないかと心配になって来た。
そんな俺を余所に、菊はすっかり飄々とした何時もの澄まし顔だ。にっこり、と目が細められる。

「…朝までレースゲームで勝負したそうです」

「ふーん……へ?」

「アルフレッドさんも以前、私の家でおやりになったでしょう?赤い帽子で髭の彼がヒーローな。…生徒会長はハンドル型のコントローラーに苦戦されたようで…今度、私の家で練習する事になったのですが……アルフレッドさんも御一緒に如何です?」

俺はさっきの話の相手が誰なのか名前を出して居ない。
何だか見透かされているようで居心地が悪い。
知らずへの字に曲がりそうになる口許を誤魔化す為に、ストローを銜えて残り少ないシェイクを啜る。
…なんだい、お堅い生徒会長のクセにゲームなんて似合わない事してさ。

「おや…ふふ、先程よりもすっきりとしたお顔をされていますよ?……ああ、それと…今朝の他校の女生徒の事は私も詳しくは分かりませんが、なんでも…──生徒会長の恋人さんだとか」

本当に…嫌になるくらい居心地が悪い。
皆して何でも知ってるような顔をして…

俺は彼の事なんて、何も知らない。

 



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