12/26 ×××


「クリスマスは休みだなんて、ここの仕事は凄いよね」

 ベッドの上でごろごろと惰眠を貪る今日はクリスマスの、翌日。

「昔色々あったんだよ」

 アーサーはその色々に纏わる原因を思い起こすと、なるべくアルフレッドの興味を引かないよう肩を竦めて見せるに留めた。
 あの冬の日の出来事は、全体的に……忘れたい。

「俺さぁ、昔クリスマスが嫌いだったんだけど、何でだろう……アーサー知ってる?」

「……さ、さあな……」

 嘘は言っていない。
 思い当たる節はあるが、あの時のアルフレッドに直接訊いた訳ではないから、知ってると告げるには値しない。と判断して間違ってはいない筈だ。

「クリスマスが嫌いな子供なんて可笑しいよね。一体どんな悲しい思いをして嫌いになったんだろうね? 君には分かるかい?」

 どう切り抜けようかと何通りもの回答パターンを組んでいたアーサーの思考が、その台詞を耳にして一瞬のうちにクリアになった。

「っ……お前! 分かってて言ってんだろ!」

「思い出したんだよ。……これを見てね」

 意地の悪い奴だとアーサーがぽこぽこ湯気を立てるのを意に介さず、アルフレッドがサイドボードを漁っている。
 取り出されたのは、巨大靴下の中に入って眠るアーサーとアルフレッドの写真だった。

「これ……あの時の……。はは、懐かしいな」

「この時の君は一人でクリスマスだってはしゃいじゃってさ。俺を菊の所へ置き去りにして、結局クリスマス当日も来てくれなかったんだ……」

 ボソリと恨みがましく紡ぐアルフレッドの青い双眸が眇められ、横目でアーサーを映す。

「折角、ツリーや部屋の飾り付けを頑張ったのに……朝起きたらフランシスの成れの果てみたいな、もっさりした白くておぞましいごわごわした髭を付けた君が隣にいた時の俺の気持ちが分かるかい?」

 心持ち唇を尖らせているように見えるアルフレッドに、アーサーは口許が緩むのを堪えるのに必死だ。

「悪かったって、だからこうして次の年からはずっと一緒にいるだろ? ……なんたって俺は、サンタクロースからアルへのクリスマスプレゼントだからな」

 込み上げる幸福感に、アーサーが普段は口にしないような台詞と共に両手を広げる。
 しかしこの後は熱い抱擁が交わされる筈だった予想に反して、アルフレッドはただ笑みを深めるだけだった。
 その目が、何故だか全然笑っていないような気がするのは気の所為だろうか。

「……うん。……ちゃんと覚えてるみたいだね……」

「アル?」

「……俺さ。……どうしても思い出せない事があるんだ……これ、なに?」

「ん? どれだ? …………!!」

 次に取り出された写真を見て、アーサーは絶句した。

「俺にだってこんな厭らしいポーズでなんか誘ってくれた事ないのに、一体誰に見せたんだい?」

「こっ……これは……! その……」

 アーサーの脳裏に蘇るのは、トラウマになるんじゃないかと思うほど繰り返されたカメラのシャッターを切る音。

「これなんか、アントーニョも一緒じゃないか……。君達、あんなに仲悪いと見せ掛けて、実は昔付き合ってたんだね……盲点だったよ。フランシスばかり警戒してたらこんな所に思わぬ伏兵がいたなんてね……」

「待てっ! これは罰ゲームみたいなもんで……!」

 アルフレッドはアーサーの言葉には耳を貸さず、写真の山から一枚一枚順にシーツの上へと並べて行った。

「見なよこの写真。奥に寝てるのは俺とロヴィーノだろ? ……子供が寝てる傍でハメ撮りなんて……とんだ変態だよね」

「嵌ってねえ! よく見ろ!!」

「見たくないよ!!」

 アーサーがずいと押し付けたBLポーズ全集第九十八の舞を写した写真が、アルフレッドの手によってグシャリと握り潰される。
 そのままゴミと化した写真を放り、アルフレッドはアーサーの上へと伸し掛かった。

「ちょっ! おい……待てって! お前っ『クリスマスイブイブなんだぞ☆』なんつってもう三日も前からずっとじゃねぇか! 俺もう……っ!」

「突っ込んで滅茶苦茶にするのは最後のお楽しみだから、安心してくれよ」

「できるか!」

「――うるさいよ」

 アルフレッドは問答無用にアーサーを片手で制すると、反対の手にカメラを構えて。

 ──パシャリ

 シャッターを切った。

「……菊にこの事を話したら、全面的に協力してくれてね……」

 いっそ写真の撮影者は菊だと、言えばどうなるだろうかと考えて直ぐさま其の考えを振り払う。
 そんな事を言えばアルフレッドが菊に何をするか解らなく、更にそんな菊に自分が何をされるか解ったものではない。

 ポラロイドカメラから直ぐに出て来る写真を、アルフレッドはシーツの上に散らばる写真の横へと並べた。

「……君がこの写真よりもイイ顔を見せてくれるまで、離さないよ」

「あの写真はただ恥ずかしかっただけで、イイ顔なんざしてねぇ!」

「なら、もっともーっと、恥ずかしがらせてあげる……」

「アル! まっ……アルフレッド!! 頼むっ、俺が悪かっ……俺が悪かったからぁぁぁああ!!」



* * * * * * * * * * * * * * *

⇒あとがき

 

[ 戻る ]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -