12/26 10:30


「……いたッ!」

 突然の痛みに目を覚ましたアーサーは、視界一杯に映るアルフレッドの泣き顔を見て痛みも忘れてふっと相好を崩した。
 アルフレッドの手に握られた白い付け髭に、サンタクロースを棄て切れずに装着したまま寝た其れを毟られたのだと知る。

「……つか、狭ッ!」

 昨夜……もとい朝方まで永遠に記憶ごと封印したい撮影会を行った後、小さなアルフレッドを抱いて巨大靴下の中で眠りに就いた。
 それが今は、寸分の隙間もなくなってしまった巨大靴下の中で自分より大きなアルフレッドに抱き締められている。
「小さいと、また置いて行かれてしまうと思って大きくなったのでは?」とは、数時間後に聴く事になる菊の見解。
 この窮屈な人肌が、意外と心地良いものだと知ったのはいつからだろう。

「寂しい思いさせて、ごめんな?」

 アーサーは狭い中でもぞもぞと身を捩ってアルフレッドを抱き締め返した。
 思えば数日振りの温もりに、じわりと涙が滲む。

「アーサー……っ!」

 クリスマス仕様の巨大靴下の中で二人ひしと抱き合っていると、不意に頭上が騒がしくなった。
 アルフレッドと共に首だけを上向けて見遣る。

「もう絶対一人にせぇへん! ほんまや! せやから頭突きは勘弁して下さい……」

 頭突きどころかボコボコにされてヨレたサンタ衣装に身を包んだアントーニョが土下座している前には、小さな身体で尊大に胸を張るロヴィーノの姿。

「ロヴィ、堪忍な? お前が一番やで? 一番好き、ほんまや……。なぁロヴィ、機嫌直したって?」

 身体を起こしたアントーニョが両手を広げると、それまで不機嫌そうに眉を寄せていたロヴィーノの表情がくしゃりと歪んだ。
 直ぐに駆け出す小さな身体をアントーニョが両手で抱き留めて抱擁を交わす光景は、彼の負う怪我の原因や、そもそもの事の発端さえ考えなければ実に感動的なシーンだった。
 キスの雨を受けるロヴィーノは、嫌がる素振りとは裏腹に幸せそうに見える。
 それもそうだろう。
 サンタクロースに願った、一番欲しいものなのだから。

 アルフレッドの視線が不意に自分へ移されたのを感じて、アーサーも抱き合う二人の姿からアルフレッドに視線を合わせる。

「ん、なんだ? 羨ましいのか? 俺達もや……」

 アルフレッドの拳が握られるのを背中で感じて、アーサーはぴしりと固まった。
 澄んだ青空のような瞳が、本気と書いてマジだと告げる。
 何が?なんて、そんな事を考えていたらその間にやられてしまう。

「ま……待てアルフレッド! 自分をその辺の子供と一緒にするな! 別にそっから再現する事ないだろ? んな事しなくても約束するし! な!?」

 アーサーが何を言ってもアルフレッドの視線は揺らがない。
 この時になって初めて、アーサーはアルフレッドが哀しみだけでなく怒りも覚えていたのだと薄々ながらに察する。

 菊が夜なべをして作ったと言っていた巨大靴下が、ビリリと音を立てて破れた。



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12/26 14:00


「ちーっす、……うお!?」

「遅いぞギルベルト」

 自分を見て飛び退くギルベルトを一睨みして、アーサーは前へと向き直る。

「よし、全員揃ったな。これより会議を始める。先ずは手元の資料を……」

 片手が不自由な為になかなか資料のページが捲れない。
 別に折れたとか千切れたとか、そういった訳ではない。ちょっと肩が外れたから、大事を取って余り動かさないよう腕を吊るしているだけだ。

 対するギルベルトも、頭に包帯を巻いている。大袈裟な奴だ。……大袈裟な筈だ。

「おいアーサー……」

「此処ではカークラン……うっ、」

 ギルベルトに「これ」と見せられたのは、今まさに指示しようとしたページに大小様々な大きさで書かれた『アーサー』の文字だった。
 慌てて自分の手元へ視線を移すと、どうやら全員分コピーしてしまったらしい事が分かる。

「い……いつの間に……。資料を使うのはやめだ! 無くても会議は出来る! では始めにここ数日俺が留守にしていた間に何……か、…ッ……!」

 アーサーの手から、書類がバサバサと床へ落ちた。
 ギルベルトが拾い上げてアーサーへ手渡すと、悪い事など何もしていないのに其の後ろの青い瞳に睨まれて。

「……ア…ル、フレッド……大人しくしてる……っ約束、だろ……」

 アーサーは極力淡々とした声の調子を保ちながら、先程までは大人しく髪を弄り倒していたアルフレッドを振り返る。
 窓に映った珍妙な自身の髪型は見ない振りだ。
 首に腕を回されるくらいならまだ良い。
 しかし暇そうに唸りながら耳朶を食まれては堪らない。
 アーサーが首を巡らせた事で耳朶は解放され、ぱっと笑みが咲いたルフレッドと目が合った。嬉々として再び耳朶へ唇を寄せてくる。

「ちげぇ! 今のに喜んで反応したんじゃない! 逆だ! ……ぎゃ! やめ……っ……〜〜〜ッ!」

 くぬぬと全身を震わせて何とか逃れようと身を捩るアーサーに、最早一研究者としての威厳は何もなかった。

「っ……きゅ、休憩だ……! 10分……いや、15分!」

「いやまだ始まってもねぇだろ」

「うっせーぞギル! 良いから全員っ、さっさと散れーーーッ!!」



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