12/25 13:00


 目が覚めて、すぐに靴下の中を確認したアルフレッドがトボトボとやって来るのを見て、菊は申し訳ないような気になり苦笑する。

「サンタさん、寝坊しているのかも知れませんね……。ですが、夜には来てくれますから」

「アーサー……」

「ええ、アーサーさんも必ずいらっしゃいますよ」

 にっこり微笑って告げると、やや不満げではあるもののアルフレッドの首が縦に振られて菊もほっと人心地つく。

「アルちゃん、こっちに来てみんなとお部屋の飾り付けしましょう?」

 アルフレッドの手を引くエリザベータに視線で礼を伝えつつ、此処数日で様変わりした室内をぐるりと見渡した。

「このお馬鹿さん、何度言えば解るのですか。良いですか? 花とは……」

 部屋の一角では、ローデリヒ指導のもと普段より眉間の皺を三割り増ししたルートヴッヒが紙の花を作成している。
 二人の手により一つ一つ丁寧に作り出される技巧を凝らし過ぎた紙花の山の横には、細長い折り紙で次々と輪を繋げる二人の子供と、折り紙にハサミを入れて輪にする為の其れを用意するエリザベータ。
 後から加わったアルフレッドには、ロヴィーノが指南しているようだ。
 赤と緑を多用してトマトカラーに仕上げているロヴィーノに対して、アルフレッドが黄と緑だけを用いてアーサーカラーにしているものだから、緑が不足して取り合いになっている。

 さて何処に混ざろうかと思いつつ、菊は鳴らない携帯電話を確認し、また懐へと戻した。
 何度か連絡を入れているものの、アーサーともアントーニョともフランシスとも、ついでに昨夜電話口から声が聴こえたギルベルトとも連絡が取れない。

 まさか昨夜あのまま馬鹿騒ぎを続けて本当に寝坊……否、万一そうだとしても夜までには来るだろう――。



* * * * * * * * * * * * * * *



12/25 20:00


「きゃっ……ちょっとやだ、ギルあなた何て格好してるのよ!」

 小さく悲鳴を上げたエリザベータが、ローデリヒの後ろに隠れたかと思ったらフライパンを手に前へ躍り出た。

「エリザ!? お前こそ何で此処に……って、ちょっ、やめッ! ギャー!!」

「兄さん……」

「このお馬鹿さんが……」



「色々準備して来たんだけどな……」

 待ちくたびれて眠ってしまったアルフレッドを前に、アーサーは小さく声を落とした。
 手を伸ばして髪を撫でると、目許には涙の痕が見受けられる。

「何をなさるおつもりだったんです?」

「……腹芸、とか」

「何故宴会のノリなのですか……」

「うっ……や、ち、 違うんだ! 俺だって色々考えたんだ……っ!」

 初日はアルフレッドの事が心配で何も手に着かなかった。
 次の日は、アントーニョとどちらがサンタをやるかで揉めて。
 その次の日は研究所内で暴れた反省文を書かされ、夜はギルベルトを丸め込み。
 更に次の日はフランシスを捕まえて料理を作らせてる途中から記憶が飛んでいて、気付いたら今日になっていて――。

 身振り手振りを加えて言い募るアーサーに、菊が盛大な溜め息を吐いて額を押さえた。

「まったく……クリスマスと言えばプレゼントでしょう?」

「だっ、だからケーキ……」

「そのケーキは後程撮影させて頂くとして。――こちらを。アルフレッド君が書いた、サンタクロースへの手紙です」

「え……? 手紙? アルはまだ――」

 アーサーは受け取った封筒を開きながら、アルフレッドを……正確にはその傍らに置かれた大きな大きな靴下を見た。
 名前も刺繍されているから恐らく菊のハンドメイドであろう其れに入る程のプレゼント。今から手に入るだろうか。
 そんなアーサーの心配は杞憂に終わる。
 几帳面な文字で「欲しいものは何ですか?」と綴られた直ぐ下に。

『アーサー』

 大きな子供らしい文字で、紙面いっぱいに記されているのは自分の名前だった。

「アルフレッド君、アーサーさんにとても逢いたがっていましたよ」

「……アル……寂しい思いさせて、ごめんな……?」

 アルフレッドの髪を優しく梳き撫でたアーサーは、菊を振り返る。

「ありがとな。なんか……色々、世話掛けちまって……何て礼を言えば良いのか」

「いえ、私は約束通り写真を……こちらをモデルにした被写体になって頂ければ、それで」

「ん? びぃえるポーズ全集? 何だこれ――」

 アーサーは菊に手渡された分厚い本を捲った。
 中にはお互いの身体に腕を巻き付け合った人間が二人。因みにどちらも男だ。
 しかし片方の男は小柄で目が大きく、もう一人と比べれば明らかな程に可愛らしく描かれていて。
 実は一見男に見える女なのか?そんなアーサーの考えは、3ページ目を捲る前に早くも崩壊した。

「……ってマジで何だこれ!! 菊!?」

 わなわなと戦慄する指先に、次のページを捲る勇気は無い。
 否、男同士が駄目な訳では無い。ただこんな、自分が読んでいるエロ本も裸足で逃げ出すような、こんな……こんな事を、先ほど菊はこの自分にやれと言った筈だ。

「カメラを用意して楽しみにしてろと、仰ったではありませんか」

「いやそれは……!」

「……私はこの数日間で、お金には代えられない数々のものを失いました……」

「き……菊……?」

 ふっと遠い目をして紡ぐ女性の名には、アルフレッドが見ているアニメである連合戦隊GOレンジャーのヒロインの名前もあった。否、只の偶然だとは思うが。
 菊が一体何を失ったのか、アーサーには分からない。

「問答無用です。さあアーサーさん、早速1ページ目から……いってみましょうか」

 視界の端の方で、アーサーと同じく菊の手からロヴィーノの手紙を受け取って目許を綻ばせていたアントーニョが、次の瞬間ロヴィーノと巨大靴下と手紙を抱えて逃げ出そうとした首根っこを捕らえて菊が戻って来るのを、アーサーは現実逃避のように早くも来年のクリスマスへと意識を飛ばしながら眺めていた。

「来年は、アルと二人で祝おう……絶対、絶対……」



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