* 12/24 15:30
「ルートヴィッヒさんなら、普段から子供の扱いには慣れているかと思いまして……」
「俺には子供など……否、訊かないで於こう」
不意に過ぎった兄の姿を振り払う。あの兄は確かに子供っぽい所はあるが、常日頃からそうな訳ではない。ちゃんとしている時は、ちゃんとしているのだ。
ルートヴィッヒは目の前の小柄な友人から、数刻前に受けた呼び出しの原因である二人の子供へと視線を映した。
そして何とも言えない渋い顔をする。
「私、一人で3日目なんですよ?」
すかさず畳み掛けてくる友人に、ぐらりと心が折れ掛けはするものの。
「いや……しかし……、明らかに怖がられているんだが……」
ちらりと見ても全く動じないアルフレッドはよしとして。
「なっ、なっんだよこっち見んなよチクショーがっ!!」
いっそこちらが泣きたくなってしまいそうなほど怯えるロヴィーノを見て、ルートヴィッヒは額に手を当てて溜め息を吐いた。
「そのご自慢の筋肉で何とかして下さい」
「無茶を言うな。全く、何をそんなに苛立っている。……ん? 随分と部屋が閑散としているな。前はもっと……」
いっそ話題を逸らして逃げてしまえないか。そう思い視線を巡らせたルートヴィッヒが、室内の違和感に気付く。
この友人の部屋は、見る者に「そんなにあって全て使いこなせるのか」と思わせる程の精密機器類で溢れ返っていた筈だ。
「……なにか、言いました?」
「…………いや。……ああ…こら、お前達。物珍しいからと云って、その辺の物に触っては駄目だ」
友人の笑みからそっと視線を外し、ルートヴィッヒは暇を持て余して各々動き回り始めた子供二人へと手を伸ばす。
ひょいひょいと首根っこを捕らえて胡座を掻いた膝の上に乗せ、腕を回して閉じ込めた。
ロヴィーノが「びゃぁぁぁあ!」と盛大に泣く。
ルートヴィッヒは片手で携帯電話を取り出して忙しなく操作すると、耳へ当てて。
「……ローデリヒか? 済まないが至急応援を頼みたい。……聴こえない? だから……」
何度か繰り返す度にルートヴィッヒの眉間の皺が深くなり、とうとう其の大きな掌でロヴィーノの口をかぽっと覆った所で、パシャリと無機質な音が微かに響く。
「……誘拐犯、身の代金要求の巻……」
「本田? 何か言ったか?」
ルートヴィッヒが通話を終えて見ると、ややすっきりしたような笑みと目が合って。
「いえ。……では私はちょっと買い物に出て来ますので、後は宜しくお願い致します。……箱の中に住まう私の嫁達を、くれぐれも宜しくお願い致しますね」
腹を決め、頷き一つで了承する。
子供達へのクリスマスプレゼントを買いに行くのだと見せられたメモを前に、ルートヴィッヒは首を傾げるのだった。
* * * * * * * * * * * * * * *
* 12/24 18:30
『本田さーん、フランシスさん知りませんかー?』
「おやセーシェルさん。いえ、私は存じておりませんが……」
御用達の手芸品店を後にした菊は、意外な人物からの着信に驚き、直ぐさま通話ボタンを押す。
何かあったのか……とは要らぬ心配だったようで、どうやらセーシェルの上司にあたるフランシスの所在が解らないようだった。
『そうですか……あっ、お手数おかけして、すみませんでしたっ!」
「いえ、……急ぎの用だったのですか?」
『これから会議なんですよー。会議が終わったら、美味しいクリスマスケーキを作ってくれるって言ってたのに……』
「……クリスマス…ケーキ……?」
通話を終えた菊は、嫌な予感と共に再び携帯電話のボタンへ指を走らせる。
何コール目か後に電話は繋がった。
「……アーサーさん? フランシスさんを知りませんか?」
『クククッ……髭ワイン野郎は俺達が拉致監禁した』
「アーサーさん!? なんで酔ってらっしゃるんですか!?」
『あの髭がケーキに酒なんか混ぜようとしやがるから、俺がこの世から消してやったんだ』
普段と全然違う……しかし嫌という程よく知ったアルコールが入った時の声の調子と、その台詞に驚いて聞き返す。
続けて返された言葉に、自分の力は及ばないかも知れないと半ば諦めていると、電話の向こうから別の声が聞こえてきた。
『フランシスー、ロヴィが好きな枢軸三銃士のケーキ早よ作ってぇなー』
『あっ、バカ! アルが好きな連合戦隊GOレンジャーケーキに決まってんだろうが!』
『お兄さんその番組知らないんですけどぉぉぉお!!』
『おーい。味見しながら混ぜろっつーから言われた通りにやってたらよ、なくなっちまったぜー? どうすりゃいいんだ?』
『もう嫌! 誰か……誰か助けて……! セーシェーッル!!』
――ピッ。 ツーツーツー……
クリスマスは、明日。
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