12/21 09:31


「菊、暫くアルを預かって欲しいんだ」

「え……?」

 菊はずいと差し出された小さなアルフレッド少年を見て困惑する。
 舌足らずに「アーサー」と繰り返す姿は、まるで母親から無理に引き離されようとしている幼子のようで、菊は訳もなく良心が痛んだ。
 それでも胸に押し付けられてしまえば抱くより他なくて。
 対するアーサーはというと、少し気恥ずかしげに視線を逸らして頬を掻いている。

「もう直ぐクリスマスだろ? アルは初めてだから、喜ばせてやりたいんだ……」

 はにかむ微笑みもその言葉も、充分に理解は出来るけれども。

「じゃあ菊、頼んだぜ! カメラ用意して楽しみに待っててくれよなっ!」

「あっ、アーサーさん!」

 気持ちは解らなくはない……が。
 菊は伸ばしても届かなかった手を下ろしてアルフレッドを抱え直す。

「行って仕舞われましたね……」

「アーサー……」

 大人とは、時に子供を喜ばせようと見当違いな方向へ頑張る事がある。



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12/21 22:30


「よ、よお……」

 只一人の名を呼び続けて涙するアルフレッドをなんとか寝かし付け、漸く一人の時間を堪能していると、控え目なノックに呼ばれて扉を開けた先には。

「……アル、良い子にしてたか?」

 心配で様子を見に来たらしいアーサーがいた。
 部屋の中には入ろうとせず、声を潜めてそわそわと外から室内を窺っている。

「そうですね、とても良い子でした。……ですが、」

 良い子か悪い子かと訊かれれば良い子だったと答える。しかし――。
 そんな事よりもっと大切な事を伝えようとした菊の声は遮られた。

「アーサー……?」

 アーサーの気配に気付いたのか、眠たげなアルフレッドの声が部屋の奥から聞こえるや否や、アーサーはビクリと肩を跳ねさせて逃げるように駆け出してしまう。

「菊……アルのこと、頼むな!」

「……アーサー……」

 菊が振り返ると、今日の昼にせめてもの慰みと作った菊手製のアーサー人形をぎゅうぎゅうに抱いたアルフレッドが、目に涙を溜めて立っていた。
 置いて行かれたのだと分かるのだろう。
 菊は屈んでその頭を撫でた。

「明日はツリーを飾りましょう。アルフレッド君が飾ったツリーを見たら、きっとアーサーさんも喜ばれますよ」

 こくりと頷くアルフレッドの小さな背中を押して室内へと戻る。


 クリスマス当日まで後4日。



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