(お互いパンツ一丁で一緒に寝てる米英の話)
※気持ちヤラシめなのでご注意。






「あつい……」
 背後から聞こえて来た死にそうな声に、イギリスは手を伸ばして枕元を探る。見つけたそれは、ペットボトルに水を入れて凍らせた物だ。
 暑いと煩いので3本ほど用意してタオルを巻いていたのだが、案の定というか全て溶けていて用を成してくれそうにない。
「離れろよ、それかシャワーでも浴びて来い」
 ふるふると、首の後ろで頭を振る気配。その動きで乱れたイギリスより柔らかい髪質が、じっとりと嫌な汗が纏わりつく剥き出しの背中を擽る。不快感に体感温度が1上がった。
 暑さから身を隠すように眠りの淵で息を潜めていた意識が徐々に覚醒する。自覚すればするだけ暑くなる他人の温度に最早我慢は限界だった。
「じゃあ俺が先に浴びて来るから、いい加減離せって」
 ぺちぺちと腕を叩けば、より一層力を込められる。
 テディ宜しく抱き締められるのは、決して嫌いではない。ただし、これが、クソ暑い夏じゃなければの話だ。
「だあああああ暑い! このバカ!!」
「君の身体は少しひんやりしてるぞ」
 それはアメリカの身体が、イギリスよりも熱いだけだろう。退け、痩せろ、叫んで暴れても抜け出せない腕が、筋肉である事なんか知ってる。
 ぺたり、また素肌の別の場所に移動した掌に熱を移されて、イギリスの体温は上がりっぱなしだ。勿論それはアメリカが恋人だからではなく、単純に暑いからである。
「くそっ! この……っ!」
 むぎぎぎぎぎ。押せども引けどもビクともしない。
 動いて余計に暑くなったが、ここで引いては全てが水の泡だ。イギリスは足をバタつかせた。
「……っ!」
 ──と、太腿の裏に何か触れてはいけない類の固いものが当たり、イギリスは思わず足を引く。先に息を呑んだのは果たして何方か、首筋に浮かぶ汗が流れた。
「…………おい」
「……なんだい」
「なんだい、じゃねえよ」
「生理現象じゃないか」
「だからってなあ!」
「恥ずかしい事じゃないって、きみ言ってたじゃないか!」
「いつの話をしてんだ! ギャアばか押し付けんな!」
 あれは幼いアメリカに掛けてやった言葉だったろうか、それとも初めて寝所を共にした朝、気付いてしまったイギリスに恥じらいを見せるアメリカに言ってやった台詞だっただろうか。どっちにしても今、その言葉をかけてやる気は微塵もなかった。
 ごりごりと、下着一枚しか身に着けていない剥き出しの足に熱の塊が押し付けられる。
 薄ら濡れているように感じるのは、双方の汗であると信じたい。
「ねえイギリス……」
「なんだ!」
 もがきながらも律儀に答えれば、返って来たのはすっかり別の熱を灯した声。
「こんな暑さなんて忘れるぐらい、もっと暑くなる事しようよ」
「どうしてそうなった!!」
 這うようにシーツの上を擦る身体が、どんなに距離を取ろうと腕一本で簡単に引き戻されてしまう。
 体勢が横並びから上下のそれに変わり、見上げるアメリカの顔を見たイギリスは諦観に動きを止めた。余計な体力は使わず温存すべしと、本能のお告げを聞いたのかもしれない。
 それでも結局、今夜も同じベッドに入り、パンツ以外を着込む事もしないのだろう。イギリスはそう思いながら、アメリカと同じように相手が一枚纏う布に指を掛けた。

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