「ふぅ、寝顔は可愛いのな」
「起きてる時も可愛いだろが。つか、お前が寝かしつけに行くなんて珍しいな?」
フランスがアメリカとカナダを寝かし付けて戻ると、イギリスは読んでいた本を閉じて顔を上げた。首を傾げる様子に、フランスは声を潜めながらキィと喚く。
「だってお前が行くと、10回中10回は帰って来ないだろ!」
「何が悪い」
フンと鼻を鳴らす様子は全く悪びれない。 子供たちが寝たら晩酌をと口約束を交わしても、戻りの遅さにフランスが様子を見に行けば、本を読み聞かせる体勢のまま仲良く3人夢の中など常の事。イギリスを挟んですよすよと寝息を立てるベッドの上に、フランスが潜り込める隙はない。 かと言ってフランスが寝かしつけようとしても、イギリスの方がいいと言われてしまう。
「はぁ、今夜は久し振りに髭と2人か…んじゃ」
フランスの恨めしい視線を袖にして、イギリスは気だるげに頭を掻きながら立ち上がった。その言葉尻に期待を乗せて、フランスは口角に緩やかな弧を描かせる。
「早速…」
つまらない悔恨は引きずらず、目先の享楽に身を投じるのはイイ男の条件だ。
「寝るか」
「!?なんで!どうしてそうなる!?」
髪を掻き上げようと持ち上げたフランスの腕がガクリと下がる。崩れた体勢は、肩透かしを喰らったフランスの心証そのままだ。
「は?明日はアイツ等と朝からピクニックに行くからに決まってんだろ?」
「何それ!お兄さん聞いてないんですけど!誘われてない!」
「知るか、うっかり忘れてんだろ。細かい事気にして、俺に毛を抜かれたいのか」
「お前が抜くのかよ!…っておい、イギリス!マジで寝んの!?」
ふあ、と欠伸をしたイギリスがヒラヒラ手を振りながら寝室へ向かって行く。フランスは思い出した。いつもはイギリスの方がいいと言って憚らない子供が、やけに素直な笑みを見せた事を。
「ああもう!あいつら…どおりでやたら大人しく寝付きが良いと思ったら…」
フランスの嘆きを聞き届けるのは、机に置かれた大きなバスケットだけだった。イギリスが用意したものだろう。
「……明日の朝はイギリスより早起きして、持ってく昼食作らないと…あと朝食も…。…お兄さん泣いちゃいそう!」
*
次でラストです! 大きくなった米加が出て来ます。
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