「いぎりちゅ、だいすきなんだぞっ」
「俺もだよ」

「僕も…イギリスさんのこと、す…すごく大好きですっ」
「ああ、俺もだ」

 頬を紅潮させ、キラキラと輝くひたむきな眼差しで見上げる子供たち。安楽椅子に座って刺繍をしていたイギリスが、手を止めて相好を崩す。

「おっ俺なんて、だいっっだいっっだーーい好きなんだぞ!」
「僕だって…っ!」
「おいおい、こら…喧嘩すんなよ。ははは…」

 その様子を端で見ていれば、混ざりたくなるのが性というもの。フランスは軽やかに進み出て、片目を伏せた。
 イギリスの視界から見て抜群の角度、見事なウィンクが決まる。自己採点は今日も100点満点だ。

「お兄さんなんか愛しちゃってるもんねー」

「は?キメェ髭、ドーヴァー沈め」

「酷い!」

 ケッと鼻白むツレない反応。嘆いてみせるのも慣れたもの。
 少し軽すぎたか、縄張りを守ろうとする猫みたいな態度は、残念ながら照れ隠しとは言い難い。

「……」
「……」

 そんなイギリスとフランスを、2人がじっと見ていると気が付いたのは次のこと。

「お…おれはあいしてないんだぞっ!ぜんぜんあいしてないんだぞっ!すっごく、すっごく大好きなだけなんだぞ!」

「え、ちょ…」

「ぼくも…っ!」

 一息でまくし立てるアメリカに、拳を握って力説するカナダ。イギリスは可哀想なくらい狼狽えている。

「2人とも待っ…」

 さっきまでイギリスの膝に懐いていた子供たちは、今やそそくさと離れて扉の前だ。

「それじゃあ、部屋の片付けしてくるんだぞっ!」
「ぼくもっ!」

 ぱたぱたと遠ざかる足音。子供部屋に向かった2人の間に、一体どんな会話が交わされるのか。幼く純真な価値観は果たして。
 今の所フォローする気のないフランスは、これじゃ愛の国失格だな…とちょっぴりセンチメンタルな気持ちになった。勿論雰囲気だけ。
 イギリスはと言えば、まだ手を伸ばした格好で固まっている。

「……」
「……」

「おい髭…、ちょっと面貸せ」

「ねえ…今のってお兄さんの所為?」



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