アーサー。1年前に出逢った、俺の好きなひと。

 思えば彼は、出逢った時から不思議な人だった。




『べああああああ!』

 突然、上に何もない筈の空から落ちて来たかと思えば。

『あ…ある……?』

 突然、俺の名前を呼んだりして。

『このっ…ばかあ!俺、本当に水はダメなんだからな……っ』

 怒りっぽいかと思えば、すぐ泣いたりして。

『…なあ、アル、その、俺……おまえに逢えて本当に嬉しい』

 突然、心臓が飛び出そうになる事を言ったりして。

 俺がアーサーについて知っている事は、あまり多くない。
 怒りっぽくて、すぐ泣いて、でも笑うと可愛くて。昔溺れた事があるらしくて水が嫌いで、暗くなる前には必ず何処かへ帰ってしまう。
 猫が好きだと言って、よく猫と戯れていた彼。アーサーが好きだと自覚してから、何度猫になりたいと思った事か。
 アーサーと逢うのは、雨の日以外の朝から夕方、決まってあの公園だった。

 一体いつから好きになっていたのかなんて、覚えてない。気が付いたら好きになっていて、アーサーの事がもっと知りたくて、もっとアーサーと一緒にいたくなった。


 俺の告白は突然だったかもしれない。

『アーサー、気付いてるかもしれないけど……俺、君が好きなんだ』

『ア、アル……』

 アーサーは驚いていたけど、決して嫌がってはいなかった。
 ――筈、なんだ……。

『よかったら一緒に暮らさないかい?部屋は狭いけど、二人で寝られるベットを買うよ。君が気に入ってるソファもあるぞ。だからアーサー……アーサー?』

『なんで…、なんでそんなこと言うんだ……?』

『アーサー?』

 震えながら後退る彼に、手を伸ばす暇は与えられなかった。

『おまえの気持ちには応えられない……おまえとはもう、逢えない』

『えっ、まっ待ってよアーサー!嫌だったならッ……待って……っ、アーサー!』

 アーサーが居なくなったのは、突然だった。否、状況から見ても俺の所為だと言うのが正しいんだろう。
 でも俺は、そんな、二度と逢えなくなってしまうかも知れないだなんて、思いもしなくて。
 知っていたら、きっと、絶対、好きだなんて言ったりしなかった。

 アーサーが居なくなってから、もう10日が経つ。こんなに長く逢えないのは、1週間雨が続いた梅雨の時期以来だ。
 勿論、アーサーと知り合った1年前以前は、その限りではないけれど。


 ――そう言えば。
 眠りに落ちていた意識が、僅かに浮上する。
 アーサーと出逢った頃から見掛けなくなった野良猫。以前はよく見掛けたあの猫と、今日、アーサーといつも逢っていた公園で拾った猫が、似ている気がする。
 主に目の上の辺りが。端的に言えば眉毛が。
 俺が恋した、アーサーとも――。

「……」

 そこまで考えた所で、完全に目が覚めた。

「…………アーサー?」

 目を開けたら、眠る前は俺のお腹の上にいた筈の、猫のアーサーがいなくて。
 広くもない部屋の中を見渡したら、猫のアーサーを抱えた、俺の知ってるアーサーが立っていた。

「ん?よお、お目覚めか」

 どうして此処にいるのかとか、今まで何処に居たのかとか、そんな事よりも――――。

(……背中に…羽根……?)

 振り向くと同時にバサリと羽撃いた翼が幾つかの羽根を散らして、頭に金の輪っかを浮かべて、服と呼べない白い布を纏って……そんな、天使みたいな姿に目を奪われて。俺はソファから半端に身を起こしたまま、動けずにいた。

「やれやれ、タイミングが良いんだか悪いんだか。ま、一応褒めて於こうか」

 姿はアーサーなのに、まるで俺の知らない彼。腕の中に抱えられたままの、動かない猫のアーサー。
 アーサーがちら、と俺を一瞥する。

「こいつは連れてくぜ。そういう約束だったんでな」






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折角のにゃんにゃんの日に何を書いてるんだ私は…
もう少しだけ続きます。


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