新刊は、「仕置きの時間」の別バージョンです。雰囲気からアルフレッドの職業から違います。裏重視で中盤まではノリのいい掛け合いもあります。後味は悪くないつもりで書きました…!
数は充分にあるので、ゆっくり来て頂いても大丈夫かと思います!通販は、ケーブさんと虎さんにお願いしました。

既刊は、オフラインに載っているのがモンハン本以外全部あります!モンハン本はケーブさんに預けているもので最後です。手元に戻して貰えるまではまだ期間があるのですみません><

そして予定は未定なのですが、自家通販をしたいと考えています。4月頃までのんびりやりたいなと…詳細決まりましたらお知らせに参ります!今マイナーな銀行口座しか持っていないので、郵便局の口座開設するところから始めたい…!

以下から新刊サンプルです!本はR18ですが、全年齢の部分から引っ張って来ました!



 ガタン、ゴトン。
 毎日のように体感している筈の耳慣れた音、揺れが、全く知らないものの様に感じられる。
 ──緊張、しているのだろうか。
 学校ではきっちりと正している制服を、ネクタイのノットに指をかけて少し緩めた。それでも楽にならない呼吸、物理的ではない圧迫感に息が詰まる。
 一呼吸したアーサーは神経を研ぎ澄まし、揺れる車両に身を任せる事なく床を踏み締めた。窓から見える景色を眺める素振りを装って、チラと細めた視線を背後に凝らす。
 灯りのない夕暮れ時の仄暗い車内には、アーサーの他に男がもう一人、いた。



 数人がけの長椅子の座席が設えられたよくある電車内とは、重たい引き戸を隔てて区切られた狭い空間。
 目的としていたこの場所に、アーサーが足を踏み入れてから程なく現れた男へ細心の注意を払う。襟に暖かそうなボアが付いているジャケットにジーンズ、メッセンジャーバッグを肩から斜めにかけて、キャップを目深に被った姿には見覚えがあった。さっきまでいた車両で、アーサーの背後にいた男だ。
 この狭いスペースには、扉が五つある。
 隣接する車両へ移動する為の手動扉が進行方向から見て前後にひとつずつ、駅に着けば自動で開く両側開きの乗降口がアーサーの真正面と背後に。そして最後は、洗面所を示す小さな金属板が打たれた細くシンプルな扉。中を確認した訳でもないのに不思議と狭い・臭い・汚いの三拍子を思わせるのは、単純に、視界に映るあちらこちらに経年劣化の形跡が見られるからだろうか。
 公共施設の禁煙化が叫ばれる前は、喫煙所も兼ねていたのか、床には灰が落ちて黒く煤けた染みが点々としていた。
 長距離走行の電車に設置されたトイレスペース、以前はそれなりに重宝されていたらしい。下調べで得た情報によると、今では駅が増えて一駅間の距離も短くなり、他の車両に新しいトイレが設置され、こんな勝手の悪く薄暗い場所で乗降したり用を足しに来る人間は色々と限界を迎えた酔っ払いぐらい──と言うのが、普段この電車に乗ってる利用者の通説らしい。更に今から暫くの間は、利用者自体が少ない区間を走る。
 つまり何が言いたいのかと言うと、悪さをするには絶好のスポット、時間帯という訳だ。
 男は先にいたアーサーを気にする様子もなく、ガタガタと煩い手動扉を閉めた後、周到にも近くにあった「清掃中」と書かれたプレートを隣の車両へ続く扉にかけていた。乗降口付近に立つアーサーを素通りして、反対側の扉にも。隣の車両を窺える窓の部分に内側からプレートをかけられてしまえば、まるで外界から隔離されたような心許なさを覚えた。犯罪者に有利な空間を作り出し引きずり込まれた感覚は、あながち外れてもいないだろう。
 ──見られている。さっきから、ずっと。
 アーサーは男に悟られぬよう気を配り、僅かに背後へ送っていた視線を足元の鞄に落とした。
 背中に感じる舐るような視線。得も言われぬ不思議な高揚感に、知らず拳を握った。
 鞄はすぐ手に取れるよう、利き手側の足元に置いている。中には、教科書やノート、財布や携帯電話といった物の他に、ビニール紐とカッターナイフを入れた。前者は何かに使えるかもしれないと生徒会室で目についた物を突っ込み、後者はペンケースの中から抜いた使い慣れた物を取り出しやすいよう一番上に置いている。
 もっと綿密な下準備をして来れば良かったろうかと、今更何を考えても仕方ない。出会ってしまったのだ、戦いは既に始まっている。
 アーサーはひっそりと息を吐いて肩の力を抜いた。目的は一つ。
 ──さァ、いつでも来い。絶対捕まえてやる。
 ゆっくりと顔を上げ、睨み据えた窓の向こうに映る男──アーサーより色の濃い金髪に、細いフレームの眼鏡をかけて、想像していたよりも随分と若いそいつと……窓越しに、目が合ったような気がした。



 遡ること今から数時間前。
 自身が生徒会長を務める学園内に、不穏な噂がある事は知っていた。
『うちの制服を着た生徒が、電車で痴漢をさせて金品を受け取っている』
 最初こそ事実であれ噂であれ好きにしたら良いと思っていたが、その嫌疑が自分にかけられたとしたら話は別だ。冗談ではない。
 そのような売春行為に心当たりなど露ほどもないが、人から怨みを買った心当たりならばごまんとある。
 誰かが自分の名を語って実際にやっているのか、あるいは単なる嫌がらせで立てられた噂に過ぎないのか。噂の出所を追っているうちに、実際に行為が行われているとみられる電車を突き止めた。ぼんやりとした輪郭の噂話がいよいよ真実みを帯びてきた時、アーサーが考えた末に出た結論は、『そもそも痴漢行為を働く奴がいるのが悪い』だった。
 買う奴さえいなければ、触らせて金を受け取ろうと考える輩も、自分が嫌疑をかけられる事も始めからなかったのだ。
 自分の身の潔白は、自分で証明してみせる──そう意気込んでからの行動は早かった。舞台となる場所をインターネットで軽く下調べし、目的と定めた時間まで生徒会室でひとり優雅なティータイムを楽しんで、目に付いた紐を鞄に詰めみ、そうして乗り込んだ噂の車両。
 正直なところ、無駄足で終わるだろうという気持ちの方が強かった。まさか本当に遭遇するとは。
 乗降口のすぐ横にある、細長い銀のポールを握る手に力が籠もる。
 この邂逅が、吉と出るか凶と出るか。
 手慣れた仕草から見ても、常習犯に違いない。警察に突き出して見せしめにでもなれば、身の潔白を証明出来る上に同様の犯罪者へ牽制になり万々歳だ。喧嘩の腕には自信がある。
 チリチリと胸を焦がす緊張を抑え込み、アーサーは背後の気配を探った。
 捕まえるなら、やはり現行犯だろう。ただでさえ男同士だ、しらばっくれられる確率は高い。いくら怪しいとはいえ、相手が何もしていないうちはアーサーも迂闊に手を出せない。今のところ、男が近付いて来る素振りも見受けられなかった。
 ──警戒、されているのか。
 あるいは何か、お互いがターゲットであると示し合わせるような合図でもあるのかもしれない。
 時間だけが刻々と過ぎる空間に、焦りと苛立たしさが沸く。
 何か出来る事は──アーサーがそう考えたのは、ひとえに相手に負けまいとする生来の気性からだった。
 くそっ、と腹立ち紛れの舌打ちを堪えて唇を噛む。
 アーサーは浅く深呼吸をすると、身を捩る素振りで腰を軽く二度、三度と振った。ささやかな動きに、肝心の相手が気付かなかったのではと危惧して、もう少し大きく腰を回す。そんな自分に覚える羞恥は、痴漢の誘い方など知るものかと闇雲に当たり散らして紛らわした。
 半ばやけくそな心境ではあったが、それまで清掃中の札を掛ける以外に動きを見せなかった相手のシルエットがゆらりと動いて。
 ────……来た。
 少しずつ寄せられる距離、すぐ背まで迫った気配にざわりと背筋が粟立つ。途端に湧く早まったような後悔は無理矢理押し殺し、俯いて下唇を噛むともう一度だけ、僅かに腰を引いて元に戻す動きで前後に振る動作を見せた。
「──……!」
 自身の目論見が叶った歓びなど、束の間ですらなく霧散して。とうとうアーサーの尻に触れた指先は、そのまま右の尻たぶを捉えてやわやわと揉んだ。大きな手のひらを押し付けられ、太股の付け根から上の膨らみを好きにされる。
 制服の下で、腕が鳥肌を立てているのが分かった。身を固くして、ひたすら黙って耐えていたアーサーは、ふとある事に気付く。
 晴れて犯罪者確定となった男を、この後どう警察に捕まえさせればいいのかと。
 元より周囲に人は居ない。このまま誰かが偶然入って来るのを待てば良いのだろうか。否、その展開に持ち込める可能性は限りなく低い。人の出入りが少ないからこそここで事に及んでいる訳で、清掃中の札をかけている今は尚更だ。では駅に着いてから──扉が開いてまで犯人が触っている事はないだろう。
 どんなにアーサーが「この人痴漢です」と言ったところで、証拠がない。男に相手は何もしていないと言われてしまえば、目撃者がいない上に男同士では信憑性も薄いというものだ。アーサーが今ここで相手を倒して紐で縛り上げてしまうのもしかり。泣くまで蹴って自白させるか? 否まさか。
 何か、決定的な証拠を掴む方法は──
 舌打ちしたい衝動を堪え、アーサーは今まで目にした痴漢関連のニュースを思い浮かべた。必要なのは証拠、又は目撃者、もしくは現行犯逮捕。知り得る限りの情報から、最適な作戦を打ち出すべく思考を巡らせる。
 男の手は、未だアーサーの尻を撫で回していた。布越しにもぞもぞと這う感触が気持ち悪い。けれどその動きは、さっきから一定の往復を繰り返すばかりで、どこか気乗りしないように感じた。
 金品を支払い、リスクを犯してまでしたかった事がこの程度とは笑わせる。ただでさえ硬くて面白味のない男の尻だというのに、これなら一人で右手とよろしくやっていた方がよほどマシではないだろうか。
 きっとこの男は、倒錯的なシチュエーションに憧れめいたものを抱きつつ、実際行動に移す事も、女性を相手にする事も出来ない小心者なんだろう。だからよりにもよって男を相手に、援助交際めいた取引をしたりするんだ。そう思うと、途端に尻を這う手が哀れに思えた。その憶測は男の尊厳を著しく損なわせていたが、知った事ではない。アーサーとて自身の名誉がかかっている。見逃してやる訳にはいかないし、犯罪者に情けをかけてやる気もない。
 決意を新たにしたところで、けれど男の手は相変わらず興が乗らないようだった。片方の尻にぴたりと手のひらを宛がい、さして強くもない力で緩慢と撫でては少し揉む動作を繰り返している。
 心なしかその動きが更に鈍ったような気がして、アーサーは焦った。今やめられてしまったら、証拠を掴めず終わってしまう。
 ──反応が薄いから、だろうか。
 なるべく手の感触を意識しないようにと、不自然に強ばるアーサーの身体は固い。
 相手が何を望んでいるのか、どうすれば確実に捕まえられるのか、考えてみても明確な答えはすぐに出なかった。次の停車駅まで、時間を稼ぐ必要がある。触られ損なんか御免だ。
 アーサーは薄く唇を開いてゆっくり息を吐き、相手に気取られない程度の深呼吸をした。焦りが緊張に変わり、嫌悪は挑戦へ。心臓が、痛いくらい早くなる。
「…………っ」
 息を呑んだのは果たしてどちらか。
 反応を示すように腰を揺らし、アーサーは自分の尻を男の手のひらへ押し当てた。それは微かな動きだったが、男には伝わったんだろう。単調だった動きが、ピクリと固まる。
 その手へ更に押しつけながら、円を描くようにぎこちなく腰を回した。背後から、僅かに荒ぐ男の呼吸が聞こえる。
 あと、もう一押しだ。何が何でも捕まえてやる。そう自分に言い聞かせ、アーサーは震える唇を開いた。
「……っ……、……ん……ぁっ……あ……」
 だあああああああああああああ! くそったれ!
 体中の血液が沸騰して、頭から噴き出してしまいそうだ。本当に、本気で、有無を言わさず豚箱にぶち込んでやらなくては。でなければ男を駅のホームから突き落とし、アーサーも飛び降りるしかない。
 懸命に絞り出してようやく出たのは、消え入りそうに幽けし越えで。羞恥に上擦る音は思いのほか上手く喘ぎを演出してくれたような気はするが、これでは小さ過ぎて聞こえなかったかもしれない。
 動きを再開した男の手に合わせて、アーサーはさっきよりも口を大きく開いた。
「……ぁ……あっ……んっ……、んン……はぁ……っ」
 これで、どうだ。何が正解かもう分からない思考がぐるぐる回る。そもそも男の喘ぎ声なんかに興奮するんだろうか。触れる尻なら何でも良かっただけで、アーサーに何の興味もない場合も──そんな思いは、男の手に力が籠もったと同時に杞憂に終わった。
「……っ、ぅひ……ッ、は……ぅ、ア……っは……」
 耳の後ろに感じる吐息は、一層近付いた距離をアーサーに伝えた。確かな手応が呼び覚ます恐怖と緊張は、負けん気でねじ伏せて。尻の狭間をすりすりと擦る指に引けた腰を、追ってきた指へ押し付けた。
 引きも切らずにじわじわと増す羞恥は体温を上げ、制服の中が汗ばみ始める。耳まで赤いに違いない。震える指で乗降口のすぐ横にある銀の細いポールを掴み、顔を上げた。
「はっ……は、……はぁ……」
 二人分の呼吸が篭もる車内へ、不意に影が差した。減速しない電車が、地下のホームへ滑り込む。
 薄暗い車内から更に明かりを奪われて、窓の外一面に連なるコンクリートの壁で光を遮られた空間。真っ黒に染まった窓に映し出された男の、燃えるような熱を孕んだ青と目が合った。ような気が、した。
 一本線路を挟んだ向こう側のホームに立つ疎らな人影が、微かに窓へ映り込む。見慣れない駅名の書かれたよくあるプレートが、瞬く間に目の前を通り過ぎた。停車駅まで、あとふたつ。
 アーサーの胸に再び焦りが去来する。男は興奮しているようだが、相変わらず手付きは布地越しに尻を撫で回すばかり。噂で聞いた通りなら、次のアナウンスで紙幣をポケットに突っ込まれて終わりの筈。このままでは、証拠を掴めないうちに逃げられてしまう。今こそ紐の出番か? だから証拠がないんだって。渡された紙幣を見せれば証拠になるのか? ぐるぐると思考が纏わり付いて動きを止めたアーサーに、男の手も鈍くなる。
 いやだ。ここまで来て、おめおめと引き下がれる訳がない。
 悪い意味で開き直った自覚はあった。それでもアーサーは意を決すると、固唾を呑み、乾いた唇を内側に丸めて舌で湿らせて、言葉を絞り出すべく咽を震わせた。
「っ……な……なか……、触らないの、か……?」
 体液だ。相手の体液が付着しているとなれば、最早どんな言い訳も通用すまい。
 相手に触らせて、自分が出す。必要な体液が、背後の男のモノでなければいけないとは限らない。
 それまでゆるゆると撫で回しては軽く揉むだけだった掌が、ピタリと止まった。
 緊張で、上手く息を吸えない。
「──た、たりない……っから。さ、さわって、……はやくぅ……っ」
 言葉尻は羞恥に溶けた。こんな事を言って、もし此方が誘って来たと言われたら──その時は、そんな事は言ってないし、していないと貫き通せばいい。痴漢の証拠がないのと同じように、こちらが何を言って、何をしたかも誰にも分からない。演技は得意な方だ。相手がこちらに何かしたという物的証拠さえあれば、後はどうとでもなる。
 そう、証拠さえあれば。
 アーサーはのろのろと両手を下げ、ズボンの前を寛げ始めた。指先が震えるのは、ポールを強く掴みすぎていた所為にして。ガタン、ゴトンと絶えず響く音の中、チャックを下ろす金具が立てる音がやけに耳につく。
「……っうん……ッ」
 どこまでするべきか、迷う手は払いのけられ、思惑通り前に回った男の指が、下着越しにアーサーを撫で上げた。

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