(既に付き合って大分経っている米英)




「んー、あつい……」
 ベッドの上にくたりと投げ出された身体、覚束ない指先がネクタイを掻く仕草にアメリは溜息を吐いた。
 空になったペットボトルをゴミ箱へ投げ入れ、備え付けの小さな冷蔵庫から新しく取り出したペットボトルを手にベッドサイドへ近付く。
「ほら、君の水ここに置いておくよ」
「んぅ……」
 自称紳士の返事とは思えない鼻から抜ける吐息に、二度目の溜息。アメリカはサイドボードへペットボトルを置くと、イギリスに代わってネクタイを解いてやった。ついでにワイシャツのボタンを上から一つ、二つ、少しの逡巡の末に三つ目は外さず手を離すと、呼吸が楽になったんだろう、火照った頬で無防備に目を閉じたイギリスがほうと酒臭い息を吐く。
「みず……」
「そこにあるぞ」
「ん……、……?」
 目を伏せたまま、話を聞いているのかいないのか、睫毛を震わせるだけで動く気配のないイギリスに大きな溜息を落として。前髪をぐしゃぐしゃと掻き回したアメリカは、サイドボードに置いたペットボトルへ手を伸ばした。
 冷たい水を口に含んで、そっと腰を折る。
 互いの唇を合わせれば伸びてくる舌は、条件反射だったんだろう。アメリカが舌を引っ込めて逃がしても深追いされる事はなく、少しずつ水を流してやればすぐにそちらへ夢中になった。
「ンっ、ん……っ」
「――これで満足したかい」
 嚥下で小さく上下する喉。顔を上げれば唇の端から零れる水に視線を逸らして、指先で強く拭ってやる。
「アメリカ……」
 アルコールで掠れた声。
 夢うつつに間延びした酔っぱらいに名前を呼ばれて、こんなヤツ童顔なだけでただのおっさんじゃないかと自分に言い聞かせるのは随分前に止めてしまった。
 身じろいで枕に頬を押しつける仕草を見下ろしながら、アメリカは思う。
 もしかしたら、自分も少し酔っているのかもしれない。
 イギリスはそのうち眠ってしまって、後わずかでこの時間も終わるだろう。
 酔っぱらいは、今夜の事なんてこれっぽちも覚えていないかもしれない。それとも明日の朝、シーツを被って死にたい死にたいと呪いの言葉を呟いているだろうか。
「あめりかぁ……」
 伸ばされる腕に距離を寄せて、泣き上戸に涙を零した痕の残る目元の赤味を優しく指で擦る。
「なに、甘えたいの?」
 片手を着いたベッドが、安いホテルのスプリングをぎしりと軋ませた。
「……明日の朝にも同じ事が言えたら、目一杯甘やかしてあげる」
 小さく返る頷きが、酔いを加速させる。
「ねえ、俺も酔ってるのかも。君の所為だぞ」
 大人しくコーラを飲んでいたアメリカを酔わせたのは、ずっと隣のスツールに座って大量のアルコールを摂取していたイギリスの他に誰がいようか。
 首筋に鼻先を擦り付ければ香るのは、アルコールよりも濃い汗をかいた彼の体臭。
 明日の朝、鏡を前に酔いも醒めるほど目を剥くだろう場所にかじり付いて、アメリカはイギリスのベルトへと手をかけた。

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6/23の大阪擬人化発行予定のイケメリ合同誌にゲストで呼んで頂きました!
上記は、その際どちらのネタを使うか迷って途中まで書いたものになります。
ゲストのご本には、これと似たようでいて違うお話を3ページ寄稿致しました。
他の方々の素晴らしいページ全部イケメリなんだと思うと開き直れて恥ずかしい台詞も言わせる事が出来ました。

こちらが告知サイトになります。携帯からは行けないかもしれません…!
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