冷えた空気が明瞭な季節の移り変わりを伝える。乾燥したそれを吸い込めば覚える喉の渇きは堪えて、腕の中の温もりに鼻先を寄せた。さっきから、微かに胸元へ触れる息が擽ったい。
 寒いのか暖を取るように身を寄せるのは、太い眉の下で長い睫毛を伏せる恋人だ。
 薄らと開かれて呼吸を漏らす唇が、乾いて見えて手を伸ばす。指でなぞればカサついた感触を伝える其処に、キスをしたくとも体勢がそれを許さなかった。胸元で心地よさそうにすうすう眠るこの人を、今直ぐ起こしてしまうのは少し勿体無い。空腹を後回しにしてでも堪能したい時というものがある。今がその時だ。
 唇を離れた指で、前髪をサラサラと弄ぶ。汗でしっとりと肌に貼り付いていた昨夜の名残は感じられない。
 自分ひとり徐々に覚醒する意識は、悪戯心をむずむずと擽った。ブランケットの中から出した剥き出しの腕を、そうっと背中に廻して布地の端を摘む。そうしてまだ夢の中にいるこの人の、腰の辺りを覆うブランケットを持ち上げた。

「ん……っ」

 むずがるように眉を寄せた顔が、入り込む冷気から逃れるように一層身を寄せて来る。ぴたりと頬を押し付けられて更に詰まる距離。よく似た温度の膝頭が足に触れた。こすこすと擦り付けられて、そのまま絡んで来る脚のなんて罪作りな事だろう。
 引き攣る唇を引き結んで、より一層布地を持ち上げた。

「ンん……おい、アメリカ……さみぃだろ……」

 どうやら起こしてしまったらしい。閉じた唇で笑い声は殺せても、震える胸の振動までは抑えられなかった。
 ぐいぐいと無遠慮に寄せられる身体が腹まで重なった所でぴたりと止まり、頑なに伏せられていた瞼がのろのろと持ち上げられる。

「……おまえ……、朝から元気だな」

 眠たげな呆れ声に。

「俺は若いからね」

 そう言って目を合わせ、季節の移り変わりも忘れるような、からりと晴れた笑みを返してやった。


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