似合わないな、と思いながら、アルフレッドは隣に座る男を見た。すぐに視線を戻してさり気なさを装う。 似合わない。何が似合わないかと言うと、先ずは小さなハンバーガーショップにも関わらずしっかりとプレスされた黒いスーツ。磨かれた靴。凛と背の伸びた綺麗な姿勢。 荷物は鞄の一つもなく、さっきから左手でポテトを一本ずつ摘んで口元に運び、右手で携帯電話を弄っている。 待ち合わせだろうか? アルフレッドは再びちらりと横を見て、前を向いた。大きく作られた窓ガラスの向こうは、綺麗な夜景でも何でもなく、車のライト行き交う大通り。アルフレッドは嫌いじゃないが、ロマンチックの欠片もない。 男がここに居るのは、アルフレッドが来るより前からだ。待ち惚けだろうか?只の暇潰し? プルルル、と、今時ナンセンスな着信音が響く。隣の男の携帯電話からだ。ようやく相手のご登場だろうか。アルフレッドはそれとなく聞き耳を立てた。
「Hello.」
男の声は優しく、穏やかだった。相手は彼女だろうか。まさか電話口の相手も、こんな声で話す男が片手に冷めたポテトを手にしているとは思うまい。そんな、紳士然とした雰囲気を醸し出す声だった。心の中で『ポテトの優男』と呼んでいたのを、『優しそうな男性』と訂正する。 興味の薄れたアルフレッドは自身も携帯電話を取り出した。メールが来ている訳でも着信があった訳でもないそれを何となく弄る。 ふと、違和感を覚えたのはそう時間も経たないうちの事だった。 隣の男が、声だけは甘く宥めるような声で相手に語り掛けながら、脚が、カタカタと片方だけ早いリズムを刻むように上下に揺すられている。 アルフレッドは思い切り見てしまった視線をさり気なく前へと戻し、再び聞き耳を立てた。男の声は相変わらず優しげで、取り立てて苛立った様子はない。一体、どんな会話をしていると言うのか。
「帰ってもいいか?」 「お金もない」 「今は近くのハンバーガーショップだ」
男の膝の揺れは徐々に強さを増して行く。本人は気付いてないのだろうか。 相手の声は聞こえない。男の声から単語を拾って、脳内で組み立てた。喧嘩して追い出された彼女の機嫌を取ってる?いや、これは――
「――そうか……分かった」
男は最後まで穏やかな声を保ったまま、電話を切った瞬間に――ポテトの空箱を握り潰した。 Shit.短い舌打ちの後に胸元のポケットからタバコを取り出して、ここが禁煙席だと気づいたのか直ぐに二度目の舌打ちと共にそれも握り潰すように二つに折ってトレイの上へ投げ捨てる。 さっきの紳士然とした態度は何処へやら、三度目の舌打ちと共にギシリとスツールを軋ませると、トレイを手に席を立った。
「……ぷっ」
――と同時に、アルフレッドは堪え切れずに噴き出した。
「あァ?」
ジロリと睨まれて視線をそちらへ向ける。初めて真正面から見た男の顔は、眉間に深い深い皺の刻まれたガラの悪い元ヤンが滲み、すごい眉毛だった。
「なに笑ってんだよ、さっきからジロジロ見やがって……」
どうやら見ていた事も気づかれていたらしい。アルフレッドは素直に謝った。とても楽しい気分だった。
「お詫びにうちに来るかい?」 「アア?」 「行くとこ、ないんだろう?」
言えば男は押し黙る。アルフレッドは立ち上がり、決まりだねと笑った。
学生米×元ヒモホスト英
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久々の思い付き小話でした!ハンバーガーショップで捨てられたヒモホストお兄さんを目にしたのは私ですが、それを元に米英でお持ち帰り妄想したら全く別物になったので完全なる二次創作という事で。 因みに今時ナンセンスな初期着信音かつパカパカ携帯を愛用しているのは他でもない私です…!アルフレッド君はスマートフォンイメージで書いたつもりなのですがスマフォも携帯電話と書いていいのだろうかスマフォはスマフォなんだろうか。時代に取り残されてるぜ…へへ。 本当は連載を更新するハズだった…!納得いかなかった話をああでもないこうでもないと捏ねくり回していたら漸く形になったので、近々up出来たらなと思います! イベントもまだ搬入準備もクロスとか値札とか買い物リストとか全て手付かずなので、来週も生き急いで駆け抜けたいです…米英! ただの日記もつらつらと長文で書き連ねたかったのですがそんな時間もないこんな世の中なんて…米英!!
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