ベッドに入って微睡んでいたイギリスは、枕元の携帯電話が奏でる某人が勝手に専用着信音として設定したアメリカ国歌に、もぞもぞと身動いだ。
 イギリスは細かい操作法など特に覚える必要性も感じなかった為、直し方が分からずたった一人違うメロディーを奏でる携帯電話を耳に当てる。

「Hello?」

 ……当然、相手には音だけでお前と分かるだなんて言ってやらないが。

『やあイギリス』
「アメリカか、なんだよ」

『14日に、さ…。君んちに行っていいかい?いいよね、反対意見は認めないぞ!』
「ちょっ、待てよ!ったく…14日な。分かった空けとく」

『HAHA,どうせ最初から予定なんか入ってないだろう?DDDD』
「テメェ……」

『…、ないだろう?ちゃんと答えてくれよ!』
「ッ……どうせねぇよ!悪かったな!ばかあ!」

『うんうん、悪くないぞ!……もし入ってるなんて言ったら…』
「ん?アメリカ?悪い、聞こえなかった」

『な、なんでもないぞ!兎に角!13日でも15日でもなく、14日だからね!』
「分ぁかったって!うるせぇぞ!…じゃあ切るからな」

『……イギリス!!』
「まだ何かあるのかよ」

『…俺は甘いものが食べたいんだぞ』
「はあ…?」

『うん、色はブラウンがいいな。ホワイトもいいね!』
「はぁ…」

『…急な仕事なんて許さないからな、折角俺がこうしてアポイントを取ってあげたんだ。特に、他の国へ行く用事なんて絶対に認めないぞ!』
「ああもう分かった、分かったから…切るぞアメリカ」

『2月14日だからね!3月でも4月でもなく!ちょっとイギリス聞いてるのかい――』
「だぁあッしつけえ!1日中空けといてやるから!いい加減寝かせろ馬鹿!」

 ――ピッ。

「はあ…――ったく。一体なんだってんだアメリカの奴……。2月14日…何かあったか?」

 イギリスはカレンダーをじっと見て、首を捻る。

「……、…バレンタイン……は、要らねぇって釘を刺されてるしなァ……」

 その時の事を思い出してチクリと痛む胸を押さえ、イギリスは携帯電話を枕元に戻した。
 大方、約束した(させられたとも言う)通りにイギリスがバレンタインチョコレートを作ったりしないよう、見張りに来るつもりなのだろう。

「…ふん。頼まれたってやるかよ、バーカ」

 すん、と鼻を鳴らし、イギリスは毛布を被った。


 ――バレンタインまで、後2日。

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