★双恋アフェットォーソ


 ピンポーン






「…はい。」
『巻ちゃん!オレだ!』
『わたしもいるよー!!』



鳴り響くインターフォン。
他の家族が居ない事を思い出し、渋々出てみれば、聞こえるはずのない声。








「何しに来たっショ!!」
「「バレンタインだからね(な)!」」



慌てて玄関に出れば目の前に同じ顔が2つ。
にんまりとイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべながら立っていた。






「巻ちゃーん、寒い!!早く中入れて!!」
「ケーキもあるぞ!」
「お前ら帰れ。」
「ひどい!折角作ったのに…!」
「そうだぞ!2人の力作なのだよ!」
「「3人で食べよう!」」



手に持った箱を掲げそう言われてしまえば、わざわざ千葉まで来た東堂双子を無下に帰すのも気が引けてくる。





―――――――







「皿とか持ってくっから、部屋で待ってるっショ。」
「わかった。」
「あ、寝室入ったら死刑だかんな。」
「うっ、わかってるのだよ巻ちゃん…。」


尽八に先に部屋へ行っているよう言い渡す。紅茶を持ってきたから自分が入れると言うありすと共にキッチンへと移動し、彼女が紅茶を淹れる傍らで皿やフォークを準備する。

ご丁寧に三等分に切り分けられたガトーショコラ。パウダーシュガーでデコレーションされたそれは、お世辞抜きに美味しそうなできである。



「紅茶入ったよー。」


ふわりと漂う紅茶とチョコレートの香り。
彼女のお気に入りだというその紅茶は少し変わっていて、カップの中に小さなハートが浮かんでいた。






――――――







「はい、あーん。」
「ん……うむ、我ながら美味いな!」
「んー……うん、完璧だね!」
「お前ら仲いいよな…。」



食べ始めてすぐ、お互いに一口づつ食べさせあいをしだした2人。
いつもの事とは思いつつもやはり慣れない。顔を見ればこの2人が双子であることは一目瞭然なのだが、やってることがバカップルのようだ。
双子の間では普通なのだろうか。少なくとも自分達兄妹の間には無いことである。








「はい、巻ちゃんも。」



突如話をふられ、今までぼんやりと漂っていた思考が戻ってくる。
目の前にはフォークに刺さったガトーショコラ。



「いや、オレはいいっショ。」
「だーめ!最初の一口はこうする決まりなんだから。」
「それはお前ら双子のだろ?」
「そう、だけど…」



少しムッとしたような、悲しそうな、そんな表情になるありす。



「わたしがやりたいの!巻ちゃんは、わたし達の大切な人だから…。」
「ありすなりの感謝の表現なんだ。受けてやってはくれんかね。」



ありす、尽八、ケーキを順番に見る。
くそ、だから嫌なんだ。最近気づいたのだが、オレはこいつ等のこのまっすぐな瞳に弱いらしい。






「…わかったショ、ほら。」



差し出されたケーキを口に含めば広がる甘さ。



「美味いな。」
「本当に?!よかったー。」



思わず口からこぼれた称賛の言葉に安心したのか、ほっとした表情を見せるありすに、今度はこちらからフォークを差し出す。



「巻ちゃん?」
「こういう決まりなんだろ?」



先ほど驚かされた仕返しと言わんばかりにいたずらっぽく言えば、至極驚いたようにこちらを見つめるありす。
彼女の薄く開いた口にフォークを差し入れる。



「どうだ美味いだろ?」
「……うんっ、最っ高!!」











この後、なんか食べさせてもらった方が美味しい気がする。などとありすが言い出し、あーんと口を開けて待機する2人を説得するのに随分かかった。


が、最初に食べさせてもらった一口のガトーショコラ。
確かに自分で食べるよりどこか美味しかった気がしたのはきっと気のせいだ。
そう思うことにした。














カップの中のハートが揺れる。
ゆらり、ゆらり、付かず離れず3つが寄り添う。
そんなオレらの、愛の形。













(巻ちゃん!オレも!)(わたしももう一回!)(雛鳥みてぇショ)








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