★アニマルプレリュード


「動物だーれだ。」


昼休み。
昼食も済ませ、みんなでのんびりと残りの時間を過ごしている箱根学園自転車競技部レギュラー陣。っといっても福富くんは先生から呼び出し、泉田くんは日直だそうで、早々に戻ってしまった。

なにはともあれ、ふと漏れたこの一言からすべては始まった。








あい らぶ しすたー 








「どうしたのだ?」
「んー、これ見てたらね、ふと思ったの。」
「ありすは本当にそのビスケットが好きだなぁ!」
「うん。尽八も食べる?」



あーんと開いた尽八の口にビスケットを入れてやる。
動物の描かれたパッケージに包まれた動物の形をしたビスケット。小さい頃からの大好物で、高校生になった今でもよく食べている代物だ。



「で、それがどうしたってンだ?」
「ほら、見て見て!みんなに動物を当てはめてみました。」



箱からいくつかビスケットを取り出し、みんなに見せる。








「まず、荒北くんはこれね。」
「オイ、これ犬じゃねーか!」
「えー、だって狼無いし、福富くんに対してとか、まんま忠犬じゃない!」
「「ぶはっ!!」」



笑いを耐えきれなくなった尽八と新開くんが噴き出す。



「テメェ、新開!東堂ォ!!」
「わっ!荒北が怒ったぞ!」
「あんまり熱くなるなよ靖友。パワーバー、食うか?」
「いらねーよボケナス!!」




ばたばたとすごい勢いで出て行ってしまった。
まぁ、あの三人は置いといて…。







「真波くんは鳥。自由気ままな感じがピッタリだと思うんだよね。」
「鳥ですかー。気持ちいいだろうなー。」
「だねー!あ、ちなみに尽八も鳥だよ。」
「??同じクライマーだからですか?」
「んーん、いつも巻ちゃんまきちゃん馬鹿の一つ覚えみたいに言ってるのがオオムっぽいから。」
「ぷっ!ありす先輩それおもしろい。」



どうやら真波くんのツボにハマったようだ。
本当は綺麗なところも似てるからっていう理由もあるのだが、真波くんが楽しそうなので言わないでおこうと思う。






「ちなみに新開くんはー…ウサギ!」
「あー!うさ吉ですか!」
「そうそう、やっぱり新開くんといったらウサギかなぁって。」



ウサギな新開くん。
頭の中で、いつも咥えてるパワーバーをニンジンに変えてみた。



「ちょっと可愛いかも…!」
「何ニヤニヤしてるんだ?」
「あ、新開くん。戻ってたんだ。」



何時の間にやら戻ってきていた新開くんたち三人。
新開くん以外、尽八となぜか追いかけていたはずの荒北くんの二人が若干やつれている気がする。
どうしてそうなったの?と聞きたかったが、イイ笑顔の彼にそれを聞いてはいけない気がして疑問を飲み込む。



「今ね、新開くんはウサギだねって話してたところ。」
「うさ吉だからかァ?」
「そ!で、ニンジン咥えた新開くんを想像したら案外似合うなぁって。」
「いや、ナシだろ。」



案外可愛いと思うんだけどな。



「わたし、ウサギな新開くんなら飼ってもいいなー!」
「へぇ、オレもありすにだったら飼われてもいいよ。」
「本当に!?じゃあちゃんとお世話しなきゃね。」
「オイオイなに言ってンだよ…」



冗談交じりに話すわたし達を、心底あり得ないといった様子で荒北くんに見られた。
冗談なのになぁ。








「でも…。」
「うん?」


しばらくじっと考え込んでいた新開くんが、思いついたように口を開く。


「世話してくれるって事はさ…、」
「ひゃっ!」



気付けば正面に座っていた新開くんの顔が目の前にあり、思わず仰け反る。
その反動で椅子から落ちそうになった所をこれまた新開くんに支えられ、一気に縮まった距離に反射的に息を詰めた。



「当然、夜の世話もしてくれるんだよな?」
「へ?」



至極当然の事のように言われた爆弾発言に、一瞬にしてその場の空気が固まったのが分かった。
が、それを物ともせず新開くんは話を続ける。



「ウサギって発情期が無いらしいんだ。」
「そ、そうなの?」
「それってつまり万年発情期ってことだろ?」
「う、ん…でも、それと夜のお世話は関係ないんじゃないかな?」
「ウサギはストレスにも弱いんだ。健康のためにも必要なんだよ。」
「いやいや、オカシイだろ!」
「ありすはやらないぞ!」



そうなんだ、と流石ウサギに詳しい新開くんの知識に危うく納得しそうになったが、逸早く現実に戻ってきた荒北くんと尽八に遮られて我に帰った。








「ははっ、冗談だよ。」
「ちょっ、びっくりさせないでよ!」



本気にしちゃった?とわたしの頭をぽんぽんと叩く新開くんに、ようやく先程詰めた息を吐き出す。
全く心臓に悪いものだ。






−−−−−−−






「ったく…。オラ、予鈴鳴ったから戻んぞ。」



荒北くんの言葉にみんなバラバラと動きだす。
わたしも戻らねばと後に続こうとして立ち上がると、新開くんに呼び止められた。
なに?と振り返ればこっちにきてと手招きされる。


彼はわたしの耳元に手を添えると、小さい子が内緒話をするみたいにして一言。



「        」
「え?!あ、それってどういう…!」
「…なんてな。」



思いがけない言葉に慌てるわたしを余所に、彼は爽やかな笑顔を一つ残しそのまま先に行ってしまった。








「もー!またからかわれた!!」















――さっきの、半分本気だから…―――

















(ア?ありすはどうした?)(さぁな)(…いい加減アイツからかうのヤメロよ)







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