シュガードラッグ



『裕介くん…今すぐ家、きて…』
『ありす?どうしたショ?……おい!』



突然かかってきたかと思えば、不穏な言葉を残して切れてしまった電話。
普段では考えられない弱り切った電話口の声に一抹の不安を感じた巻島は、鍵と財布をつかみ隣りの家へと急いだ。







インターフォンを鳴らすが、中から人が出てくる気配は無い。慣れた手付きでいつもの場所にある合鍵を見つけると、それを使って中へ入る。






「ありす?…どこに居るっショ!」


相変わらず家の中は静まり返っており返事は無い。


ガタリ


微かだが二階から物音がする。
彼女の部屋からだ。







「ありす!!」
「ぅ、あ…ゆうすけ、くん?」



部屋の中へ入ると、玄関まで行こうとして力尽きたのか、床に座り込んでいるありすの姿。が、様子がおかしく、顔は真っ赤で辛そうに息を切らしている。



「大丈夫か?」
「ぅん…朝から調子、悪くて…寝てたんだけどダメで、今日ママ達も居ないし…しんどい、し…ぅえ、どうしたらいいかっ、ふぇ…分からな、くて…!」



体調が悪いと気持ちも弱くなるのか、べしょべしょと子供のように泣きながら説明をするありす。巻島は取り敢えず彼女をベッドに寝かせると、その額に手をあてた。



「だいぶ高いな…メシは食ったか?」
「…うん。」
「薬は?」
「………まだ…」
「ちょっと待ってるっショ。」



行かないでと駄々をこねる彼女をなだめやっとの事で部屋を出ると、常備してある風邪薬と水、冷えピタを持ち再び部屋に戻る。
額に冷えピタを張り、薬が飲みやすいよう少し体を起こしてやったところで、持ってきた薬と水を渡した。



「ほら、飲むショ。」
「…やだ。」
「治らないぞ。」
「粉薬は、無理…!」
「…お前、まだ飲めねーのか。」



いやいやと頭を振る幼馴染が粉薬を飲めなかった事を思い出した巻島は、どうしたものかと考える。
少しして何かを思い出すと、キッチンへ足を向けた。







「ほら、飲ませてやるから。」



戻って来た彼の手にはティースプーン。袋の中の粉末を少量すくい取ると、彼女の口元に近付けた。
小さいころ、いつもこうして飲ませてもらっていた彼女の姿を思い出したのだ。



「これだったら飲めるっショ。」
「うぅ〜、わかった…」



ひと口飲んでは水で流し込む。
余程粉薬が嫌なのか、飲む度に風邪の辛さとはまた違う苦痛の表情が浮かぶ。本当に子供みたいだ。笑いそうになるのを抑えながら、彼はひと口またひと口と薬を差し出す。



「あとひと口ショ。」
「…ん」







ありすは最後のひと口を流し込み飲み干すと、ほっとしたようにベッドに倒れこんだ。
ぐでんと体を横たえる彼女の頭を、よく出来ましたと言う意味を込めて撫でる。



「……くちにがい…」
「薬だからな。」
「裕介くん、ありがと。」
「こんくらい気にすんなショ。」
「…来てくれたのが、裕介くんでよかった…」



へにゃりと無防備に笑うありす。
巻島はふと思い立ったように、頭を撫でていた手を頬へ滑らせると、いつもより熱を持った彼女の唇に自分のそれを重ねた。



「!!」
「口直しだ。少しはマシになったっショ。」
「ぅ、あ、うつっても知らないから…!」
「構わねーよ。ほら、もう寝るショ。まだ居てやるから。」
「手、握っててくれる?」
「はいはい。」




彼がしっかりと手を握った事を確認し、ありすは安心しきった表情を浮かべ眠りに着いた。














彼女の無防備な寝顔に釣られ、そのまま寝てしまった巻島。
二人の仲睦まじい姿が帰ってきた彼女の両親に発見されるのは、この数時間あとの出来事である。











(また、飲ませてくれる?)(口直しもいるかァ?)(ばか…!)



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