甘美なる赤に溺れる




鈍く光を反射するラウンドトゥ


とろりと滴るような濃厚な赤


細く伸びたヒールとは対照的にひどく甘い少女趣味な編み上げのストラップ




プロモデルも嫉妬するようなスラリと長い足を包むそれはアンバランスなのによく似合っていて、現実味のないモノクロの世界の中で、彼の髪色同様強烈な存在感を示していた。







「ゆ、すけ……なんで?」



ぎりりと背中に食い込むピンヒール。
うつぶせになっているため、背の高い彼の顔色は窺えない。時折ちらちらと視界に入る髪と体の感覚が、この人物が巻島裕介であるという事実をわたしに突きつける。

起き上がろうと試みるが、そのたびにそれを上回る力でねじ伏せられ再び地を這う。
笑っているのか、泣いているのか、怒っているのか、はたしてわたしが一体何をしたのだろう?考えども考えども答えは出でなくて、ただひたすら彼によって与えられる痛みに耐える。



「ね、ゆうすけぇ…!」
「…お前が望んだんショ。」



いい加減苦しくて、苦しくて、だんだん自分の声が泣き声に変わるのが分かった。
何度目かの呼びかけをしたとき、ようやく沈黙を保っていた彼が口を開いた。



「え…?」
「これが、お前の願いなんだろ?」



ふいに背中にかかっていた圧力が無くなったと思うと体が反転されそのまま馬乗りにされる。
ようやく捉えた彼の口元はにやりと歪な弧を描いていた。

お前が望んだからしてやってんだぞというような目でこちらを見下ろしていた彼がこちらに手を伸ばし頬に触れる。
ヒヤリといつもよりも低く感じられる体温にびくりと体を揺らすと、細い指はそのまま頬を撫で、首筋に爪痕を残した。



「いっ…!ゆう、すけ…やだよ…」
「イヤ、じゃねぇショ。ずっとこうして欲しいと思ってた。」


クハッと嗤いながら耳元でささやかれる。


「そんなこと…!」
「いいや、違わねぇショ。だってヨォ…」










おまえ、笑ってるぜ?手首を押さえている彼の指が食い込む。
プツリと皮膚が切れ血が流れる感覚に激しいめまいがするとともにふつふつと湧き上がる快感をその時初めて自覚し、体が震える。
チカチカと点滅を繰り返す視界。ぐるぐると廻りだす意識に限界を感じたわたしは、そのまま意識を手放した。








―――――――









「っていう夢を見たのよ。」
「いや、ワケ分かんないショ。」


至極深刻そうな顔で言うのは正真正銘自分の彼女。


「わたし、そっちの気があったのかなぁ…」


目の前でうんうんと唸っているが正直反応に困る。



「裕介はさ、わたしがマゾだったら別れる?」


少し不安そうに見上げる瞳は身長差から必然的に上目づかいになる。
彼女に言ったことは無いが、その小動物を連想させる瞳に征服欲を覚えることも何回かあった。これはオレが少なからずサドの気があるということなのかもしれない。
もちろんこれからも彼女に言うつもりはない。それ以上に大切にしてやりたいという気持ちがあるからだ。



「んなわけねぇショ。ありすはありす、だろ?」



そういって彼女の頭をなでることで自分の中で首をもたげそうになった欲を消化させた。













しかし、この日を境に時たま彼女の突拍子もない行動に付き合わされる羽目になることを、オレはまだ知る由もなかった。




















(裕介!ちょっと殴ってみて!)
(ブッ…!!)
(ちょっ!ありす、何言ってるっショ!田所っちが誤解すんだろ!!)
(だってぇ…試してみればはっきりするかもいれないし)
(ガハハ!ほどほどにしとけよ!!)




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