ミダスの憂鬱 「先生のばかーー!!」 「弥生さん?」 叫んだままの大勢で顔を青くする彼女と、立ち尽くすオレ。 からりと晴れた深い青空と白いウロコ雲が印象的な、そんな秋の日だった。 昼休み。 たまたま1人で食べる事になったオレは、ゆっくり出来る場所を求め屋上を訪れた。 鍵がかかっているはずの屋上。あまり知られていないが、実はこの鍵、随分前から壊れており、コツを知っていれば簡単に開けることが出来てしまうのだ。 しばらくすると、ギィと錆び付いた扉が軋む音と共に誰かが入ってくる。 お互い死角にいるため、誰なのかは分からない。向こうも気付いていないようだ。 まあいいか。昼食を再開しようとした次の瞬間。 「先生のばかーー!!」 叫んだ。声からしてどうやら女のようだ。 誰とまではわからないが、どこかで聞いたことのある声。という事はうちのクラスのやつか? 少し気になり、給水塔の影からその人物を見ようと顔を出す。 「弥生さん?」 そこにいたのは大変意外な人物。 振り返った彼女の顔がサッと青くなる。 「誰?!…っ巻島くん?!」 弥生ありす。ウチのクラスの学級委員。真面目で秀才。いつも誰にでも人当たりの良い、良い人だけど面白味の無い人間。というのがオレの印象…だった。数分前までは。 「い、いつからそこに?」 「さっきからずっと居たけど。」 「ぅ、あ、じゃあさっきのって…」 「あぁ、バッチリ。」 「うわぁぁあぁ!」 頭を抱えてしゃがみ込む弥生からは、優等生とか堅いとかそういう雰囲気は微塵も見られず、青くなったり赤くなったりクルクルと表情が変わる様はむしろ面白い。 「お願い!今見たり聞いたりした事忘れて!!」 「ナァ。」 「な、に?言っておくけど、お金は持ってないからね…!」 「プッ、そんなんじゃねーよ。」 今度はキッと鋭い瞳で見上げてくる。小柄な体躯と、フー!という効果音が付きそうなそれは、まるで警戒心丸出しのネコみたいだ。 「何時もやってんの?ソレ。」 「え?」 「その、なんだ、愚痴叫ぶ事っショ。」 「…うん、まぁ…たまに…。」 色々大変なの!先生はコキ使うし、みんなは私に頼りったぱなしだしさ、嫌ってわけじゃないけど…私は召使かって思うのよ!一度話してしまうと止まらないのか、ポロポロと愚痴をこぼし出す。 ぶんぶんと手を振り回したり地団駄を踏んだり、教室で見るより生き生きとした彼女に、フツフツと湧く好奇心。 「っと、ごめんなさい!こんな話…。」 「いや、いいっショ。」 「あ、で、この事誰にも…」 「あぁ、言わねーよ。」 ぱぁっと顔を明るくする弥生にオレは言葉の続きを言う。 「ただし。」 「これからはオレも誘うこと。」 予想外の事だったのか目を真ん丸にさせ、ポカンと間の抜けた表情の彼女が面白くて思わず吹き出す。 「ちょ、えぇ?!」 「だから、オレが聞いてやるショ、アンタの愚痴。」 じゃあなと言い、ひらひらと後ろ手に手を降りながら屋上をあとにする。 扉の向こうではきっとまた百面相をしているのだろう。そういう思うと可笑しくて、これからを楽しみに思ってる自分がいて、思わず口の端が上がるのが分かった。 (…弁当忘れたショ)(ぅえ、どういう事?!なんで??) |