にゃんと奇妙な物語! 「ねぇ…」 「ンぁ?んだよ…」 ゆるりとしたまどろみに身を任せていたオレを引き戻す声。 「〜っ靖友…!」 「オレァまだ寝みィ…」 なおも揺すり続けられ、次第に意識がはっきりしてくる。 「靖友ってばぁ…!」 「〜っんだよ!!……ア"?!」 いい加減痺れを切らして起き上がったオレの目に入ってきたのは、なんとも非現実な光景だった。 「ちょ、おまっ、ソレ…!」 「さっき起きたら…どうしよ…!」 そう泣きそうに話すありすの頭には黒くて感情を表すかのようにペタンと垂れた耳。しかも、人間のじゃねぇ。ネコ、だ。 「ハァ?!え、ホンモノ?」 「にぎゃ!」 試しに耳を摘まんでみれば、痛がる声と共に、ペシリと何かに叩かれた。 明らかに人の手ではない奇妙な感触に、恐る恐る視線を下げてみれば、シーツから覗くゆらゆらと動く尻尾。耳と同じ毛並のそれはおそらく彼女から生えているのだろう。 漫画の中のような出来事。 あまりの出来事に眩暈を覚えるとともにどうしたものかと考えを巡らせる。 「やす、ともっ!!」 この非常事態を脱する策を考えていると、いきなり抱きついてきたありす。 ベッドという不安定な場所も相待って支えきれずに倒れ込む。 「ってェ、どうしたァ?」 「んっ、やすとも…」 オレを押し倒し、ゆるゆると誘うように胸に手を這わせる普段は見られない積極的な姿。 「なんか、ね、おかしいの…」 赤く染まった頬に潤む目元。時折漏らす吐息は甘く、まるで情事のそれである。 「んぁ…あつい、の…!」 「お、オイっ!」 猫耳、尻尾、この状態…。もし、彼女が今猫なのだとしたら…。 ますます非現実的な展開に頭がついていかない。 今、彼女は、何をしている? オレは… 「ぁ、やすとも…はやくっ。」 「チッ!どうなっても知んねーかンな!」 彼女がこんな可愛いものを付けて、こんなに積極的に誘われて、そのまま跳ね除けられる奴がいたとしたら見てみたい。 体を反転させ形成逆転。ひらりと舞う細い腕をシーツに縫い付ける。 「っありす…」 「やすとも…」 ――――――― 「靖友…靖友!!」 「ありす!!」 「大丈夫?うなされてたけど…。」 目の前には不思議そうに目を瞬かせるありす。 先程と違うのは、彼女に耳や尻尾が無い事。そしてここが教室である事だ。 「(夢オチかヨ!!)」 真っ昼間からどんな夢見てんだという自己嫌悪に苛まれる。 「ね、靖友?」 「アァ?」 ありすに呼ばれそちらに目をやる。 「じゃじゃーん!どお?似合う?」 「な…!?」 「今日は2月22日で猫の日なん…」 「…っだぁーーー!!」 目の前には猫耳を付けたありす。 黒い、毛並の、猫耳…。 先程の夢の彼女と被り、思わず逃げ出してしまった。 猫の日に見た白昼夢。 お気に入りのサボり場。 ニャーと何処からともなく聞こえた鳴き声は、オレを嗤うような、そんな声色だった。 (猫、嫌いだったのかな?)(やっべ、逃げてきちまった…) |