恋色フィルター




カシャ

 カシャ カシャン



「いいね、次ポーズ変えてみようか。……そう、オッケー。」



シャッター音の響く室内。
ファインダー越しに見る彼は、いつだって微笑んでいて、挑戦的で、決してわたしを見ることはない。



「はいオッケー!お疲れ様でーす。」
「お疲れ様です。」



彼、巻島裕介は今を時めくモデルである。
長身にスラリと長い手足、切れ長の瞳に少しアンニュイな表情と独特の雰囲気が特徴で、気を抜いてしまえば絡め取られてしまう。そんな魅力がある。



「ありすさん。個撮って今週末でしたよね?」
「うん。ゴメンね忙しいのに…。」






−−−−−−−






カシャカシャ

カシャ カシャ



自分でもなぜ個撮に誘ったのか分からない。
ただ、一度だけ。
一度だけ彼の素を見たことがある。確か、誰かと電話をしていた。
その笑顔がまた見たくて、撮りたくて、気づいたら個人撮影に誘っていたのだ。



 カシャン



「…なんか、ちがう……」
「すいません…」



思わず零れた小さなつぶやき。
どうやら彼に聞こえてしまったようだ。



 カシャ
  カシャ



「あ、ちち違うの!何ていうか、その…」
「その?」
「…素の、巻島くんが撮りたくて…」
「素、ですか…?」
「あのさ、巻島くんって、…その…結構作ってるでしょ…。」
「……」



言ってしまった。
怒らせた、よね…?どうしよう、何か言わないと!!



「ごごごごめんなさい!!今の忘れ…」
「驚いたな…」
「えっ?」
「それ、正解ショ。」



 カシャン



ニヤリ。何時もの彼とは違う笑いに胸が高鳴る。



「何で分かったんだ?」
「前に誰かと電話してるのを見て…その時の表情がね、違ったから…ちゃんと目の前の人を見てたっていうか…」
「クハっ、盗み見かァ?」
「ち、違うよ!偶然!!」
「それで?」



 カシャ



セットに座っていた彼が立ち上がった。


「素のオレは、どうだった?」


   カシャ


一歩、また一歩近づいてくる。
何だろう、クラクラする。溺れていく。
少しづつ絡め取られていく。



「…すごく…」
「うん。」



 カシャン



目の前まで来た彼がレンズを覗き込む。
見たかったはずなのに心臓がうるさくて、これ以上見ることが出来なくて、ギュッと目をつむる。




「…すき、です。」
「よくできました。」



カメラを下げられたかと思えば、ふわりと柔らかい感触。
驚いて目を開けば目の前には彼が居る。
ファインダー越しに見ていた彼とは違う……わたしを、見ている。



「やっと、だ。」
「え?」



お互いの吐息が絡まる。
あまりの近さに、息が、できなくなる。



「アンタだけだったんだヨ。何時も不満そうに撮んの。」



そうだったんだ。全然気づかなかった。



「で、毎回頑張んだけどダメでさ。ファインダー越しに必死に何かを探すアンタが気になってた。」



また、だ。
2回目のキス。



「で、気づいたら好きになってたショ。」
「うそっ…!」



目の前ので笑う彼。
わたしを見てくれている。愛しくて、嬉しくて、恥ずかしくて、思わず彼に抱きつく。



「ありす、好きだ。」



耳元で彼が囁く。
答え?そんなの決まってる…!



「わたしも、すき、です!」


















その後の撮影は、お互いの事を話しながら進んだ。
好きな食べ物、休日の過ごし方。彼がロードバイクをやっていた事、高校の時インターハイに出た時の事。
そんな彼の話を聞きながらわたしはシャッターを切る。







この日の写真はきっと誰かの目に触れることは無い。


わたしと彼だけの秘密。


わたし達の、最初の一歩。






















(ありす、いっつもオレの事見てたっショ)(気づいてたの?!)(オレも見てたからな)(!!)




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